ナノハナ
「今日の日直、運んでほしいもんがあるから昼休みに職員室まで来てな」
そう言われたのにも関わらずもう片方の日直はミーティングがあるからと逃げ出して、私だけ職員室へと向かう羽目になった。
どうせノートくらいだからいいけど、なんて思っていたら先生に頼まれたのは段ボール4箱。
「え、先生これ私一人で運ぶんですか?」
思わず嫌な顔をしてそう聞いたら、流石に先生も可哀想だと思ったのか近くにいた人へと声をかけてくれた。
「北、すまんけどこれ手伝ってくれんか?」
“北”と呼ばれた男の子は「ええですよ」と二つ返事で頷いて、全く関係がないにも関わらず教室まで運ぶのを手伝ってくれた。
スリッパの色を見ると同じ学年で、どこかで見たことがある顔だなあと思って考えながら運んでいたら階段のところで「危ない!」と大きな声とともに何かがぶつかって空中へと放り出された。
段ボールを二箱抱えていて足元しか見えなかったのもあって、なにが起きたのかわからないまま散らばった荷物を見ていたら、北くんがぶつかってきたと思われる背の高い金髪の男の子へ静かに怒っていた。
「廊下でふざけたらアカンっていつも言うとるやろ」
「すいませんでした!!!」
「俺に謝るんやないやろ?ぶつかった人に謝らんでどうするんや」
あ、そうだ。
北くんてバレー部の主将だ。
怒られているのは2年の宮侑くんで、この光景はこの学校にいればどこかしらで見たことがあると思う。
私もそれに漏れず結構な頻度で見ていて、だから北くんの顔を見たことがあったんだ。
「あの、すみませんでした…」
北くんに怒られてすっかりしょげている宮くんに「ええよ、私も荷物持ちすぎとったし」と笑って立ち上がろうとした瞬間、足に激痛が走った。
「いっ…!」
言葉にならない痛みに思わずしゃがみこんだ。
「…足捻ったん?」
「そうみたいです…」
頼まれている荷物運びも途中なのに、この足で保健室にもいかないといけないなんてどうしよう。
そう思っていたら北くんが私の前へとしゃがみ、背中を差し出した。
「保健室まですまんけどのってもらってもええ?」
「え、いや!そんな悪いよ!」
「足痛いんやろ?」
「荷物もあるし…」
「その足でどうやって運ぶつもりなんや」
ぐうの音もでないその正論に、仕方なく背中へとのったら「侑、これ3組に運んどき」と宮くんへと言った。
「俺一人でですか!?」
「誰のせいやと思っとるんや」
「うっ…」
「一緒にはしゃいどったの治やろ。二人でちゃんと運ばんといかんで」
テキパキと指示する北くんは、大人しそうに見えてピシッとしてるんだなあと驚いた。
『あの双子を止められるのはバレー部主将の北だけ』と言われるだけある。
「さ、すまんけどしばらく我慢してや」
よいしょ、と立ち上がり私をのせて歩く北くんの背中は思っていたよりも広く大きかった。
いつもバレー部の他の人たちと一緒にいると小さく見えるけれど、北くんもちゃんと男の子なんだ。
意識するとどうも落ち着かなくて、少し身体を離したら「ちゃんとくっついてな落ちてしまうよ」と注意された。
身体をくっつけると香る北くんの匂いにクラクラして、保健室に着いた時に先生に「あら、熱?」と聞かれるくらいに熱くなった頬は暫く冷めてくれそうになかった。
花言葉:予期せぬ出会い
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