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「お母さんはお父さんが狐やなくても好きになった?」
そんな質問を娘の名前からもらったときはひどく驚いた。
今まで恋愛なんて全くと言っていいほど関心もなかったというのにどういった心境の変化なのだろうか。
「好きにはなったかもしれんけど、結婚はせんかったかもなあ」
「どうして?」
「んー…もしお父さんがヒトやったらってことやろ?」
「うん」
「ヒトとは寿命が違うからなあ…。大好きだからこそ、その人が先に逝ってしまうのには堪えられへんもの」
質問をした時の不安そうな瞳は、私の答えを聞いて絶望へと変化したように思えた。
「でもな、好きな気持ちは抑えられへんと思うよ。結婚はしなくてもずっとお父さんのこと好きなのは変わらへんのと違うかな」
「結婚しなくても?」
「せやな」
「もしお母さんやったら、好きって伝える?」
「離れれば忘れられてしまうしその人の記憶には残らへんかもしれないけど、お母さんやったら伝えるかな」
不安に揺れていた瞳が、前を向いた気がした。
「その人が忘れても、名前が忘れなきゃええと思うよ。想い出をつくるのは悪いこととちゃうからな」
「ありがとう、お母さん」
「泣きたくなったらおいで。いつでも味方やからね」
どんな恋も相手がヒトであるならば最後は幸せではないだろう。
それでも恋に真っ正面からぶつかろうとしている娘の幸せを願わずにはいられなかった。
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