ムシトリナデシコ

朝、いつもよりも早い電車に乗ったら同じ車両に花巻がいた。

花巻とは高一の時にも同じクラスで、男子の中だとかなり仲の良い部類に入ると思う。

細くて高い身長、誰とでも仲良くなれる性格、そしてバレー部のレギュラーというモテないわけがない男で、告白されても全て断っているという話は女子の中でも有名だ。

一度気になって好きな子でもいるのかと聞いたけれど曖昧に躱されてしまい深くは聞けないでいる。

イヤホンを耳にして気怠そうに宙を仰いでいる花巻に『今日の宿題やった?』と手元のスマホで適当な話題を送ってみたら、バイブが震えたのかすぐに気づいた花巻がスマホの画面を見た。

途端、嬉しそうな顔で笑った花巻に私の方が驚いた。

いつも飄々としていて笑うこともあるけれど、あんな風に笑ったのを見たことがない。

もしかしてなんて思ってしまう自分を深呼吸で一旦落ち着かせ、花巻とのやりとりに集中する。

『当たり前だろ。名前は?』

『当然やってる。いつもこの時間なの?』

『学校で勉強すると捗んだよ』

そこで気づいたのだろう、首を傾げた花巻から続けてメッセージが来た。

『なんで俺が登校中ってわかんの』

『同じ電車に乗ってるから』

勢いよく立ち上がった花巻は電車の網棚に頭をぶつけて、もう一度自身の座っていた席へと戻った。

『ぶつかってんのウケる』

『うっせ、どこにいんだよ』

コロコロと表情が変わる花巻に我慢の限界で「花巻、ここだよ」と手を振れば、すぐさま立ち上がり私の方へと歩いてきた。

「名前の方こそ早いじゃん」

「たまたま目が覚めてね〜」

「隣座ってい?」

「いーよ。何聞いてたの?」

「ん?名前も聞く?」

そう言って差し出されたイヤホンを片耳に挿すと聞こえてきた音楽は意外にもラブソングで、タイトルは確か…。

「愛し君へ」

つぶやいた言葉に花巻がハッと私の方を向き、「あ、タイトルな」と焦ったように笑った。

すぐに逸らされた顔を見つめると、耳まで赤くなった花巻が私の目を隠すように手で覆い「見んなって」と言う。

もしかして、が確信に変わる瞬間だった。

「私に言いたいことあるなら聞くけど?」

「今言ったらダサいだろ…」

「じゃあいつ言ってくれるの?」

「仕切り直して近日中に言わせてもらいます…」

降参だとばかりに両手をあげて天を仰ぐ花巻の腕に「待ってますね」と抱きつけば頬を掻いて「楽しみにしとけよ」と照れたように言われた。



花言葉:青春の恋



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