サンビタリア

「いちごオレか…いや、やっぱり炭酸も捨てがたい…」

「名前まだ何買うか迷ってんの?」

「だってどっちも飲みたいんだもん…」

昼ごはんも食べて食後にジュースでもと自販機まで来たはいいけれど、大本命のコーラが売り切れていて何を飲もうか迷っていた時だった。

「あ、やべっ」

「うわ!お前ふざけんな!」

「名前危ないっ!」

急にあがった大声になんだと思って振り向いたら知らない男子がこちらによろけてくるのが視界に入った。

ぶつかる!

思わず目を閉じて衝撃を待ったのに、いつまで経ってもぶつかる気配はなくてそっと目を開けたら目の前には岩泉くんが立っていて、先程ぶつかりそうになっていた男子は向こうのほうに尻餅をついていた。

「っぶねーな、遊ぶならもうちょっとそっちでやれよ」

「すいませんでした!!!」

「…名字、怪我ねぇ?」

「あ、うん。ありがと…」

「ならよかった」

多分、岩泉くんがぶつかる直前で先程の男子の腕を引いて私にぶつからないようにしてくれたんだ。

私が大丈夫そうなのを確認して岩泉くんはそのまま去っていったけれど、格好よすぎやしないか。
漢前だと言われるわけだ。

「名前、大丈夫?」

「うん、岩泉くんが助けてくれたから平気」

「や、そうじゃなくて顔真っ赤だよ?」

「それは多分大丈夫じゃないやつだわ」

「惚れた?」

「かもしれない…」

だってあんな風に助けられたことなんて今まで生きてきて一度もない。
それこそ少女漫画みたいなことが自分の身に起きたら誰だって冷静でいられないと思う。

「岩泉、男子がよろけるのみてわざわざ走って助けにきてくれてたよ。案外その前から名前のこと見てたのかもね」

「えっ」

「だって声があがってからじゃ間に合わなかったと思うもん」

「そんな都合良いことある?」

「じゃあさ、今日後3回岩泉と目があったら私の言うこと信じてみたら?」

「午後も後2時間しかないのにそんなに目が合うわけないじゃん」

「そ?試してみなよ」

楽しそうに笑う友人を見て、少しだけ試してみたい気持ちが勝った。


昼休みも終えた5時間目、お腹もいっぱいで眠くなる時間。

岩泉くんも例外なく先生の話にうとうとと舟を漕いでいるのが見える。
今にも机とおでこがぶつかりそうな様子に、思わず笑いそうになった。

頬を引っ張ったり背伸びをしたりと一応寝ないよう頑張ってるのが見てとれたけれど、結局授業中は岩泉くんはずっと眠そうで目が合うどころの話じゃなかった。

やっぱりそんな都合のいい話ないか。

そう思っていたのに、日直が終了の挨拶を終えたところで岩泉くんが私の方を見て目がばっちり合った。

すぐ逸らされたけれど、多分間違いない。


6時間目は体育。

男女別だしこれは目が合う以前の問題だなと思っていたのに、今日は男女共に体育館で女子はバドミントン、男子はバレーボールだった。

「岩泉が相手チームとか無理だろ!」

「あんなヤバいスパイクとれねぇよ!」

「そっちは及川がいるじゃねぇか!」

「及川も岩泉もチートだろ!」

早くも男子のチームからは悲鳴が上がっていて、それに対して岩泉くんが「情けねぇこと言ってんなよ」と笑っているのが見えた。

「名前ー!」

「あ、ごめん!今行く!」

私たちの方も試合形式だから、気合いれないと。
万一変なところを見られたら恥ずかしいから。

『ピーッ!』

何試合かすると、先生が笛を鳴らし集合がかかった。

「皆さん男子の方が気になるみたいなので、最後は応援でもしましょうか」

やっぱりバレー部がいて、かつ普段チームメイトの二人が敵同士となると盛り上がるのだろう。

こちらの試合中も視線が男子の方に向く人が多く先生も苦笑いで、ある程度経った頃合いで男子の見学をOKしてくれた。

「あ、丁度及川くんと岩泉くんが試合するみたいだよ!」

「名前、岩泉くんの応援しなくていいの?」

「え、この距離で叫ぶの?」

「みんなやるから目立たないよ」

そんな話をしていたら岩泉くんがまさにスパイクを決めて、こちらが心の準備をする間もなくせーのの掛け声で「ナイスキー!」と大声で叫ばされた。

みんな同じくらいの声量だったのに、岩泉くんが私の方を見てニカッといい顔で笑ってくれた。

二回目。
しかもこれだけ女子がいる中で私のことを見て。

ドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせようと深く息を吐くけれど、いくら深呼吸しても落ち着いてはくれない。

後一回目が合えば友人の言っていた通り、少しは信じてみてもいいのかもしれない。
だってこんなに短時間でそんな何回も目が合うなんて普通ない。
仲の良い人なら兎も角普段あまり話もしないのに。

授業が終わるまでの後10分、本当に目は合うんだろうか。

試合終了のホイッスルが鳴り、岩泉くんと及川くんが言い合ってるのが見えたけれど、私たちの方も先生から集合がかかり向こうへと行かなければならない。

身体を先生の方へと向けようとした時、及川くんが私の方を指差して岩泉くんに何か囁いた。

途端に岩泉くんは真っ赤になって及川くんのことを蹴り、私の方をしっかりと見て「見過ぎだバカ」と口が動くのが見えた。

あ、そうか。
目が合ったのは私が見過ぎてるからか。

俯いた瞬間「岩ちゃんの照れ隠しのせいで名字さん落ち込んじゃったじゃん!」と及川くんが叫んだ。

「うるせぇクソ川!授業中だぞボゲェ!」

照れ隠しって言った?
そしてそれを岩泉くんは否定しなかった?

「ほら、私のこと信じてもいいと思わない?」

友人のニヤリと笑った顔に「そうかも」と同じような顔で返し、後で岩泉くんに好きだと伝えてみようと思った。

真っ赤になるかな、それとも漢前だからドンと受け止めてくれるかな。
早く授業が終わればいいのに。



花言葉:私を見つめて



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