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高校の卒業式の日、去年同じクラスだった名字さんに声をかけられた。

「俺になんか用でもあった?」

名字さんとは修学旅行で一緒の班だったけれど、特に親しかったわけではないしこうやって二人で話すのも初めてだったと思う。

「おさ…宮くんのブレザーのボタン、記念にもらえへんかなと思って」

「別にええけど…名字さん、俺のこと好きやったん?」

「うん、ずっと好きやったよ」

好きだと伝えてるはずなのに、悲しそうな顔をする名字さんに心臓がズキリと痛んだ。

なにか大事なことを忘れている気がしてならない。

ボタンを制服から取りつつ必死に思い出そうとするのに、頭に靄がかかったように記憶がはっきりとしない。

「なあ、俺なんか忘れとるん?」

「さぁ、どうやろな」

曖昧な返答をする名字さんは俺からボタンを受け取ると「これ、大事にするな」と嬉しそうに笑い人混みの中へと駆けて行った。

「サム!」

後ろからツムに声をかけられて振り向くと角名たちが集まっていて、そういえばバレー部で集まると言われていたのを思い出す。

「集合写真撮るから正門のとこ来いって言われとったやろ」

「すまん、忘れとった」

「…あれ、治ボタンないじゃん。誰かにあげたの?」

「あー、まあ…」

角名の質問に答えようとしたのに、さっきまで目の前にいたのが誰なのかが出てこない。
たった今喋っていた筈なのに。

「モテる男はええなあ!」

ツムのやっかみも全然気にならなかった。
さっきまで一緒にいた人は一体誰で、俺とはどんな関係だったのだろう。

大事な記憶が抜け落ちていくような感覚に、心が騒つくのを感じた。



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