16

高校を卒業してからのサムはどこか遠くを見てぼんやりすることが多くなった気がする。

本人に聞いても「なんや大事なことを忘れとるみたいなんや」と曖昧な回答しか返ってこない。

いい感じの子ができても付き合う直前になって「あの子やない」と首を振るから、好きな子でもいるのかと聞いたら「おらんけどなんかちゃうんや」と苦しそうに言われた。

でも、サムだけやない。
俺もなんか喉に小骨がつっかえてるような感じがする。

「あの子やったらなあ」とふと思うことがあるのだ。
でも、その“あの子”が誰なのかわからへん。
ただ“サムにはあの子がおる”、なんとなくそう思うしそれを俺らは理解っている。

しかし高校在学中に絶対何かがあったはずなのに二人して思い出せないなんて不思議でしかない。

卒アルを見てもスマホに残ってる写真を見ても心当たりの子は一人もいないのに、それでも誰かがサムの心の中にいたと思えるのだ。

「誰なんかなあ…」

どうしてその子はサムの前から消えてしまったんやろか。
どうして俺らの記憶に全くと言っていいほど残っていないんやろか。

サムはずっと待っとるのに。