06

「上手に打てた!」

「なんかいつもよりいい気がする!」

コート内に入って俺のあげたボールを打つ子どもたちは気持ちいいくらいにスパイクが決まる。

子どもたちも嬉しそうで我先にと列に並ぶのが見える。

そうやってトスをあげていると、一旦水分補給の休憩になり、名前ちゃんが嬉しそうな顔で俺の方へ駆け寄ってきた。

「やっぱり侑さんがあげると違いますね」

「スパイカーが気持ちよく打てるようにすんのが俺の役目やからな」

「こんなにみんなの目がキラキラしてるの見るの初めてです」

「光栄やなあ」

名前ちゃんの言う通り、ちびっ子たちは打つのが楽しいと言わんばかりに自分の順番が周ってくるのをソワソワして待っている。

スパイカーは格好ええ、今はそう思うだけでいい。
もう少し大人になった時に、セッターの格好よさがわかったらええねん。

「私も侑さんのセットで打ってみたかったなぁ」

「せやったら今打ってみたらええんちゃう?」

「えっ、いいんですか?」

「あの列に並んでくればええやん」

「でも…」

子どもの中に混ざるのが恥ずかしいのか躊躇う名前ちゃんに声をかけたのは監督やった。

「『チャンスに出会わない人間は一人もいない。それをチャンスにできなかっただけである』っていう言葉があってね、今の名前ちゃんはどうかな」

ハッとした顔をして、監督を見つめる名前ちゃんは「掴める人間でありたいです」と言い子どもたちの列の中へ走っていった。

「あの子に足りないのは背中を押してくれる存在なんだよ」

「…やっぱりバレー続けたがっとるんですか?」

「多分ね。あんなに楽しそうにやってたから、一回の怪我で辞めちゃうのは勿体ないと思うんだよ」

監督が「さ、休憩もおしまいにしようか」と笛を口に咥え大きく鳴らすと「さっ、こーい!」と子どもたちの大きな声が体育館に響く。

背中、俺が押してあげたいと思うのは差し出がましいやろか。



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