12

「名字さん!!」

なりふり構わず大声で叫ぶと、走っている名字さんの足はピタリと止まり俺の方へと振り返った。

「今更なんの用?」

名字さんの口から溢れた声は踏み込むのを躊躇したくなるくらいに冷たかった。

でも、ここで躊躇ったらもう後はない。

息を吸って一歩名字さんの方へ踏み出すと、向こうは逆に一歩後ろへと下がった。

「逃げんといて。…話がしたいんや」

ゆっくりと言葉を選びながら口にすると、少し考える素振りを見せたものの名字さんは小さく頷いてくれた。

「どっか空き教室でも入るか」

「…屋上、鍵壊れとるよ」

名字さんの提案に二人で屋上へと向かう階段を昇ると、確かにその扉に付いているはずの鍵は下に落ちていて鍵の意味を成していない。

扉のドアノブへと手をかけ開けると、ギィイと鉄の扉が軋む音がする。

ドアを開けると俺らの重い空気とは180度違う、清々しい秋晴れの空が広がっていた。

「で、話って何」

俺とはひとつも目を合わそうとしない名字さんと向かい合い、ゆっくりと息を吸い自分の心を落ち着ける。

「今まですまんかった。俺、見た目で判断されるの好きやないのに名字さんにも同じことしとった」

深々と頭を下げ、今までの非礼を詫びれば名字さんからため息が聞こえ「怒ったわけやないねん」と半ば諦めにも似た声色でそう口にした。

「今まで冷たかった侑くんが見た目が変わったくらいで優しくなったから、同じ私なのになんでって悲しくなってしもてな」

「すまん」

「もうええねん。侑くん、謝ってくれたし」

「俺、名字さんのことちゃんと知りたいんや。友だちになってくれへん?」

名字さんは驚いて目を丸くし、困ったように笑った。

「好きやって告白した相手に友だちになってくれって随分辛辣やな」

「へ…いや、名字さんがよければ俺は付き合いたいんやけど、でもここは誠意を見せへんとアカンとこちゃう!?」

「付き合いたいって思ってくれるん!?」

「サムと仲良くしてるん見て正直妬いたし…ってかそうや、サムと付き合うてるんちゃうの?」

「治くんと!?治くんは私に付き合ってくれて一緒にいただけやで」

「なんで」

「知らんけど、兎に角一緒におったらええって言われた」

何もかもサムの手のひらの上やったわけか。

「いや、そこは今はええわ…。兎に角!この先名字さんと付き合うために俺は誠意を見せようとやな」

「好きになってくれたん?」

「えっ、それは…その…名字さんめっちゃかわええやん…?」

「見た目が変わったから?」

「誤解や。いや、誤解ではないけど」

どこから話したらいいもんかと迷っていたら、名字さんは「やっぱ見た目なん?」と眉を下げる。

このままでは仕方ないと高校に入ってから俺の身に合ったことを余すことなく話した。

それと、初めて見た時から気になっていたことも。
ギャルやしと否定はしていたが、サムに言われてずっと視線は名字さんを追っていたことに気づかされた。

それも含めて、ちゃんと名字さんに伝わるように丁寧に。

話し終えると名字さんはポロポロと涙を溢し、一言「侑くんが可哀想やん」と小さな声で俺に言った。

「や、俺も結局同じことしとるからそれはええんやけど」

「ええわけないやろ!侑くんがどんだけバレーのこと好きかもわからんで!優先順位がわかってへんやん!」

泣きながら俺のために怒ってくれる名字さんを見て、本当にこの子は俺のことをよく見てくれているんやと改めて驚いた。

「俺、バレーが一番やからあんまり連絡とかも取れへんし、デートもできへんけど」

「そんなん知っとるよ!寧ろバレー放って女の子にかまけてる侑くんなんか見たくないわ!」

「ちゃんと大切にはするから、友だちになってくれへん?」

「そこは付き合うてやないん!?」

「ええの!?」

「うん、冷たくされても侑くんのこと嫌いになれなかったし。バレーしとる侑くんを一番近くで応援できたらそれでええねん」

「なら、よろしくお願いします…」

「うん、よろしくね」

付き合うと言うには少し堅いけれどお互いの手を取り握手をすると、名字さんは嬉しそうにふわりと笑ってくれた。



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