08
次の日も名前ちゃんについていってちびっ子たちとバレーボールに勤しんだ。
昨日と違うのは名前ちゃんも最初から列に並んでるくらいやった。
「名前ちゃんもやるの?」
「侑さんのトス打てるなんてなかなかないからね!」
「そこは俺らに譲るのがオトナなんじゃねーの?」
「私もまだ子どもです〜」
軽口を叩きながらも子どもたちと一緒になって並ぶその姿には、昨日躊躇していた名前ちゃんはいなかった。
「さっ、こーい!」
子どもたちの元気な声と、名前ちゃんの気合いの入った声が体育館に響く。
名前ちゃんが跳び、スパイクが綺麗に決まりボールが床に跳ねるのを見て、俺自身もあの茹だるような暑さの体育館でやるチームメイトとのバレーが恋しくなる。
「早よ帰りたいなあ」
帰って、みんなにトスをあげたい。
スパイク練も終え、休憩になると名前ちゃんは荷物を纏め帰る支度をしていた。
「名前ちゃん帰るん?」
「この後試合なんで。…侑さんどうしますか?」
「んー、もう少し見てく」
「わかりました。帰り道わからなかったら宿に連絡くださいね。迎えに行きます」
「名前ちゃんはオシゴトやろ。複雑な道やなかったし大丈夫や」
「お腹空かせて来てください。今日はご馳走ですから」
ふふ、と笑って俺に手を振り走っていく名前ちゃんを見ていたら「今日も来てくれてありがとう」と後ろから監督に声をかけられた。
「こちらこそ混ぜてもらってすいません」
「宮侑くんのセットがこんなとこで経験できるなんて、子どもたちは今はわからないと思うけど…すごい経験だよ」
「俺のこと知ってはるんですか?」
「そりゃ僕もバレーボール好きだからね。稲荷崎の宮ツインズって言ったら有名だもの」
「そうですか?」
「まあ、知ったきっかけは名前ちゃんなんだけどね」
唇に指を当てウインクをした監督は「ファンなんだって」と小さく笑った。
「ファン?」
「あの子、前はWSやってたんだよ。以前見に行った大会で君がセットしてるのを見て一目惚れしたって言ってた。あんなにスパイカーに愛を注げる人がいるんだって。僕が監督になった時、名前ちゃんが楽しそうに話してくれてね」
監督は「あの子には内緒だよ」と悪戯っぽい表情でそっと笑った。
「だから君に会えてすごく嬉しいんだと思う。明日帰るらしいけど、よければこれからも仲良くしてあげてね」
ピー!
監督は話し終えると笛を吹き、試合開始のためにコートの方へと歩いていった。
昨日体育館に来る途中、名前ちゃんが言っとった『一生の運ここで使っちゃったかも』は誇張でもなんでもなかったのだ。
本当に俺に会えて嬉しかったのか。
そう思うと居ても立っても居られなくて、監督に「ありがとうございました!」とお辞儀をして体育館の外へと駆けた。
夏休みのたった2泊3日だけれど、これをひと夏の思い出なんかにしたくなかった。
ここで得た縁を続けたければ、続ける努力をしなければ。
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