諦めて3人で帰る
結局、鬼のような形相で追いかけてきた侑を振り切るのは無理だろうと判断し、諦めて3人で帰路につくことにした。
「なんで二人で帰ろうとしたん」
頬を膨らませそっぽを向きながら不貞腐れる侑を見ながらなんて答えようかと考えるけれど、まさか二人を前に「治が好きだから」なんて言えるわけもなくひたすら謝ることしかできなかった。
当然のことながら買ったプレゼントは明らかに値段が違うので渡すことは叶わず、手に持った紙袋は行き場を失ってしまった。
自室の机の上でプレゼントの袋を眺めてみるけれど、告白しようと思った勇気もどこかへ飛んでいってしまい、このままだとこれからも二人の幼馴染として過ごすことしかできない。
と、いうかそもそも治は今日色んな人から告白をされたけれどその返事はどうしていたのだろう。
自分のことにかまけていて他の女の子も告白しようとしていることをすっかり忘れていた。
もしかしたら誰かの告白をOKしていて、明日から一緒に登校したりするのだろうか。
どちらにせよプレゼントも渡せなければ告白もできなかった自分には誰かを羨む権利なんてないのだけれど。
深いため息を吐いたその時、机上のスマホがピコンと新しいメッセージを知らせた。
『話あるんやけど。いつもの公園来れるか?』
差出人は治だった。
告白は兎も角プレゼントくらいは渡せるかもしれないと思い『すぐ出る』とだけ送り返し、軽くパーカーを羽織り待ち合わせの場所へと急いで歩いた。
「一回帰ったのにすまん」
「ううん、私もプレゼント渡してへんかったから丁度よかったわ」
おめでとうとお祝いの言葉と共に紙袋を渡せば、治は複雑そうな顔でそれを眺めた。
「これ、もらえへんわ」
いつもならありがとうともらってくれる治が、私へプレゼントを押し返してきた。
「なん…で…?」
「言うたやん、今年はいらんて。それよりも俺の話聞いてほしいんやけど」
それよりも?
私が治のために選んだものを要らないと言い、プレゼントよりも大事な話があると。
嫌な予感が頭をよぎる。
彼女ができたから他の女からは受け取れない?
そして今言おうとしているのはその報告?
色んな感情がぐるぐるして、気づけば返された紙袋で治の顔面を思いっきり叩いていた。
バシッといい音がして治の短い悲鳴が聞こえたけれど、そんなことなんてどうでもいい。
「ひ、人の気も知らんでそんなこと言いにわざわざ公園に呼び出したん!?」
「ちょ、名前?」
「彼女が出来たなんてLINEでええやん!」
「は?」
「それとも何!?私が治のこと好きなん知っとって侑の前で振るのも可哀想やからわざわざ二人になったん!?」
「なんの話や!」
もう一度振り上げた手を掴まれ大きな声で止められて、あまりの自分の情けなさに視界がぼやけるのを感じた。
治はひとつも悪くない。
でも、それでもずっと好きだったから。
「名前」
ボロボロと溢れる涙を拭くこともできずにいると、上から宥めるように優しい声で名前を呼ばれた。
「ごめん、誕生日なのに」
「名前、顔見して」
こんなぐちゃぐちゃな顔、治に見られたくなんかない。
イヤだと首を振ると、治は押さえていた私の手を離し私の頬をその大きな手のひらで優しく包んでくれた。
私と目線が合うように少し屈むと、くしゃっと嬉しそうに治の顔が崩れるのが見えた。
「俺、名前のこと好きやねん。義理のプレゼントならいらんて意味やったんやけど…これ本命ってことでええの?」
私のこたえもまたずにプレゼントを紙袋から出して丁寧に開封する。
「パスケースや!ボロボロになっとったの気づいてたん?」
嬉しそうに笑う治を見て、少しずつ現実へと戻される。
「…治、私のこと好きなん?」
「ちっさい頃からずっと名前のこと好きやねん」
「ほんま?」
「こんなことで嘘なんてつかへんの知っとるやろ」
私のことが好き。
つまりは、両想い。
「名前を公園に呼んだのは告白しようと思ったからや」
「彼女ができたとかやなくて?」
「彼女ならたった今できたとこやし、それは今目の前にいる名前やな」
今まで見たことがないくらいに柔らかい表情で笑った治に、心臓がドキリと跳ねた。
「好きやで、名前」
「私も、好き」
「…帰るか」
「うん」
治の腕にぎゅっと抱きつくと、治は少しだけ驚いた顔をしたけれど、すぐ唇は嬉しそうに弧を描いた。
「これからよろしくね」
「おん」
どちらからともなく近づいた顔に目を瞑ると、唇に優しいキスが落とされた。
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