「侑」

「なんや名前、先帰ったんかと思っとったわ!」

体育館から出てきた侑は私の顔を見るなり嬉しそうな表情をして、周りにいた女の子たちには目もくれなかった。

「プレゼント、やっぱ渡したくて買いに行ってたん」

「ほんま!?いらんて言うたけどほんまは欲しかったから嬉しいわ〜」

「今年も宮家でお祝いやろ?その前に二人で話したいんやけどええ?」

「おん!」

侑は体育館の方へ振り向き、大きな声で治に「サムー、名前と先帰ってるからな!」と叫び再度私の方へ顔を向け「ほな、帰ろか」と手を取り歩き出した。

バスに乗ると、私の手の中にあるプレゼントが気になるらしく何度も視線がそちらの方に向くのがわかる。

大の男に言うのも変かもしれないけれど、こういう素直なところは本当に可愛らしいと思う。

「今年は侑と治、違うプレゼント買うたんやけど」

一応前置きをして紙袋を渡すと「開けてもええ?」とソワソワしながら私に聞いてきた。

「侑のやから、どうぞ」

プレゼントを買った時も緊張したけれど、こうやって目の前で本人に開けられる時が一番緊張する。

今まではそんなに高くなくて治と同じものだったから適当にしか選んでないし、なるべく実用品かつ消耗品でと思っていたから緊張しようがなかったのだ。

丁寧に包まれた包装紙をビリビリと破き中の物を取り出す侑に、本当にこれでよかったのかと何度も自問自答した。

もしかしたら気に入らないかもしれない。
そもそも使うかどうかもわからない。

なんだか目の前がぐるぐる回っているような感覚に、思わず目を瞑ってしまった。

喜んでくれなかったらどうしよう。

でも、侑から発せられたのは想像以上に喜んだ声だった。

「香水やん!」

身につける物がいいと思って財布やらパスケースやらを見て回ったのだけれど、どうも侑が大切に使ってくれるイメージがわかなくて、ふと目に入った香水にしたのだ。

何種類か匂いを嗅いでみた中で一番侑らしいのを選んだつもりだ。

侑は普段香水なんて使わないけれど、私が選んだのをつけてくれていたら嬉しいなと思ってしまったのだ。

独占欲、だと思う。

正直喜んでくれるかどうかは賭けみたいなものだったけれど、香水瓶を色んな角度から眺めているのを見ると本当に喜んでくれているらしいのがわかる。

「バス降りたら匂い嗅いでみて?」

「そうするわ!名前も嗅いでみたん?」

「うん、侑っぽいと思ったのにしてみたんやけど気に入らなかったらごめんね?」

「名前が選んでくれたってだけで嬉しいからええねん」

地元のバス停まで侑はずっと香水瓶を大切そうに眺めてくれていて、どうか匂いも気にいってくれますようにと願わずにはいられなかった。

侑はバスを降りるなりその場で手の甲にシュッと吹きかけると「流石名前やな」と言ってくれた。

どうやら好みの香りだったらしい。

「侑、私…」

言うなら今しかない、そう思った。

「私、侑のことずっと…」

「名前、それは俺の方から言わせてほしいやつやな」

ハッと侑の顔を見ると、ニヤリと口は弧を描いていて目は慈愛に満ち溢れていた。

「小さい頃からずっと名前のこと好きやった。俺と付き合うてください」

「私も侑のことずっと好きだった…。他の女の子からプレゼントなんてもらってほしくなかった」

「もらってへんよ」

「え、だって…」

「名前が妬いてくれたらええなって。嘘も方便って言うやん?」

なんだ、つまりは侑の手のひらで転がされていたのか。

「侑、お誕生日おめでと」

「おん!これからもよろしゅうな!」

「うん、よろしくね」

先程つけた香水がふわりと鼻をくすぐり、自分の選んだ香りに包まれている侑にひどく満足感を覚えた。

これから侑はもっと人気がでるというのに、こんな独占欲が強くて大丈夫なのだろうか。

「心配せんでも俺には名前だけやで」

「え、声に出てた!?」

「心配そうな顔しとったから」

繋いだ手を強く握り返され、今日のこの暖かさを忘れないでずっと大事にしようと、そう思えた。



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