ナンテン

春の暖かい日差しを浴びて、白いドレスがキラキラと輝く。

一番私に似合うのはどれかって、何時間も悩んでくれた私の最愛の人。
私は今日、その人と結婚します。


高校時代は同級生で、きっとお互い好きだったのに言えず終いのまま卒業を迎えた。

大学生になり、毎日隣にいたのが嘘みたいなくらい連絡をとらなくなって、いつの間にか疎遠になっていた。

ずっと心の中にあった淡い恋心。
忘れようと他の人とも付き合った。
でも、彼の私のことを見るときのちょっと意地悪なんだけど、でも慈愛に満ちた目が思い出されて耐えられなくなり別れてしまう。

そんなことを何回か繰り返したとき、友人に合コンをセッティングしてもらった。
どうせいい出会いなんかないのになあと思うけど、とりあえず行ってみないことにはわからないと参加した。

結構飲んだから帰るときには少しフラフラで、さっきまで隣に座っていた男の子が私の体を支えてくれていた。
あーあ、このままお持ち帰りされちゃうのかな、なんて思ったら嫌な気持ちになった。

「名前」

どこからか彼の声が聞こえて、お酒に酔ったからってそんな幻聴きこえなくていいのにと思うけど、あまりの懐かしさと愛おしさに涙が出そうになった。

「名前」

もう一度聞こえた声にハッと顔をあげたら、そこにはずっと会いたかった彼がいた。
なんでここにいるんだろう。

私の肩に回っていた手を優しく解き、私を彼の胸へと抱きとめてくれた。

「ごめんネ、この子俺の大好きなコなんだ」

そうニッコリと笑った彼をみて、さっきまでいた男の人は謝ってどこかへ行ってしまった。

「黒尾…」

そう彼の名前を呼べば「なに?」とこたえてくれて、これは夢じゃなくて現実なんだと思った。

「どうしていたの?」

「たまたま見えた」

「すごい偶然だね」

「お前、お持ち帰りされそうになってんなよ」

「ごめん…」

それっきり彼は黙ってしまって、私は彼に手を引かれるまま歩いた。

少ししたらマンションが見えて、エントランスをくぐりエレベーターに乗る。
部屋の扉をあけ、室内へと通される。

「お持ち帰りされたワケだけどいいの?」

そう彼が聞いたので頷けば「それどういう意味かわかってんの?」と言われる。

「だって、夢かもしれないから」

「夢じゃねーよ」

「ずっと会いたかったんだもん…」

「あ、そ。じゃあ何されてもいーのな?」

「うん」

「うん、じゃないだろ…。なあ名前、俺、高校の時ずっとお前のこと好きだったんだわ。久々に会ったら他の男にお持ち帰りされそうになってて。わかる?俺のその時の気持ち。腸が煮えくりかえるかと思ったぞ?頼むからそんな無防備でいてくれるなよ。」

懇願に近かったと思う。
私の腕を掴んで、一生懸命に話してくれる。

「ねえ、黒尾。好き」

そう言ってキスをすれば、珍しく顔を赤くして「そうじゃないだろ…」と頭を抱えた。

「大好き。だから結婚しよ、お願い」

もう一度言えば、観念したかのように「俺の方が大好きですし?」と言われ、優しく抱きしめてくれた。



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