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高校三年生の夏は特に部活が連続して休みの日もなく、家族旅行も近場で済ますことになった。

去年の夏に行った民宿に行く案も親から出たけれど、もし行って名前ちゃんに会ってしまったらそれは違うような気がして行くにしても俺抜きで行ってくれとお願いした。

母親からは一瞬驚いた顔をされたけれど、心当たりでもあるのか納得したようで「青春やなあ」なんて言われ少しだけ恥ずかしかった。

そして迎えた春高一日目、シード校だった俺らは例年通り他の高校の試合を見学するように言われ、昨年戦った烏野が戦っているコートへと足を向けた。

途中、すれ違った女の子が「名前先輩っ!」と大きな声で呼んでいるのが耳に入り、久々に聞いた名前に胸が震えるのを感じた。

同じ名前の違う人かもしれない。
それでも、期待せずにはいられなかった。

呼ばれた方を振り向けば、あの夏に見た眩しい笑顔が俺の視界に確かに入った。

名前ちゃんや。

すぐ話しかけようかとも思ったけれど、お互い試合をしに来ている以上会うのは今じゃない気がする。

本当は会いたい。
会って声を聞きたい。
あの鈴のなるような声で俺の名前を呼んで、あの夏に誓った約束を果たしたい。

でも、今会ってもいいのだろうか。
恋愛に臆病になるなんてらしくないけれど、それだけ名前ちゃんとの約束は俺にとって大事なものだった。

「烏野の試合、まだ始まらんやろ。会いに行っても間に合うと思うで」

ポロリと溢されたサムの呟きに、目から鱗が落ちるかと思った。

「そんなチラチラチラチラ女子の方ばっか見よって鬱陶しいねん。気になるんやったら行けばええやん」

「行ってええの…?」

「試合観てこいとは言われたけど一応自由行動やで。そんな鬱陶しい態度とられるくらいやったらとっとと用事済ませてスッキリしてきたほうがよっぽどええわ」

早よ行けと言わんばかりにシッシと振られた手に今回ばかりは感謝をするしかない。

「すまん、すぐ戻る」

先程名前ちゃんを見かけたところへ戻れば、名前ちゃんもまた俺を探しているのか周りをキョロキョロと見渡していた。

「名前ちゃん!」

「侑さん…!」

名前を呼べばすぐ俺の方を向き、嬉しそうに駆け寄ってきてくれた。

「約束、果たしにきました。ちゃんとレギュラーです」

「よう頑張ったな」

「侑さんに押してもらった背中ですから」

「続き、言うてもええ?」

「是非」

はにかんだ顔は一昨年の夏に見た幼さはなくなっていて、大変な思いをしてレギュラーを獲得したのが窺える。

「俺と付き合うてください」

「喜んで!」

「試合、頑張ってな」

「侑さんも頑張ってください」

差し出された手を固く握り返し、お互いの健闘を祈る。

伝えることは伝えたし、後は試合に勝つだけ。

「ほな、また後で」

「ええ、また後で」

さあ、去年の雪辱を晴らすために彼らの試合を見に行こうではないか。



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