01
初めてできた彼氏に浮かれすぎていたのかもしれない。
いや、高校時代ずっと好きだった人の熱愛報道を聞いて自暴自棄になっていたのもあるだろう。
友人からは「なんか胡散臭い」と言われたのに「これを逃したらもう恋愛なんてできへんかもしれん」とトランク一つ抱えて実家を飛び出し彼と同棲を始めた。
その数年後、待っていたのはサプライズで出張から直帰した時に鉢合わせた浮気現場。
玄関のドアを開けたときに見知らぬハイヒールと中から聞こえる厭らしい声に真っ青になった。
見て見ぬふりもできたと思う。
それでもしなかったのは彼の今までの私に対する態度を思い返すとどう考えても本命は今抱き合っているであろう女で、この先関係を続けたところで不幸になるのは自分だとすぐわかったからだろう。
トランクケースを玄関に置き、静かに寝室のドアを開け地を這うような声で「他人様の家で何やっとんねん」と言ったら、先ほどまで盛り上がっていたベッドの上は一瞬で地獄に落ちたかのような空気になった。
「名前、違うんだこれは…」
「言い訳せんといて。これ、鍵返すわ」
「ちょっと待ってくれ、本当に違うんだ!」
「私の荷物、捨ててくれてええから」
素っ裸で私に縋り付く彼に、今までこいつのどこが好きだったのだろうと本気で冷めた。
「汚い手で触らんといてくれる?」
私の洋服を握りしめた腕を振り払い、通帳や印鑑などの必要最低限のものを鞄に詰めこむと玄関へ大股で向かった。
「名前!!待ってくれ!!」
最後まで見苦しく私の名前を呼んだ彼に「今までありがと。もう二度と連絡せんといてな」と笑顔で言い、数年間住んだこの家にさようならを告げた。
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