02

手に持ったトランクケースをガラガラと引き街中を歩いていると、自分に起こったことが夢だったらいいのにと思わずため息がでた。

彼と歩いた街並みが全部嫌な思い出に書き換えられて、一分一秒でも長くこの街に留まりたくない。

実家は田舎暮らしがしたいと引き払ってしまい以前住んでいた場所にはもう家はないけれど、他に行くところも思いつかなくてとりあえず地元の駅までの切符を購入した。

行く当ても思いつかないまま駅に着いてしまい、どうしたものかと周辺をフラフラしていたときだった。

「名前?」

随分と懐かしい声が私の名前を呼んだ。

「侑?」

振り返った先にいたのは想像した通りの人物で、高校時代の片想いの相手である宮侑だった。

「なんや、帰っとったん?」

「あー、今帰ってきたとこや」

「さては彼氏に浮気されて別れたんやろ」

ふざけて言う侑は何も悪くない。

前から冗談を言い合う仲だったし、それがたまたま今の状況を当ててしまっただけ。

それでも今の私にはグサリと刺さり、意図していない涙が頬を伝った。

「げ、ほんまに別れたん?」

泣き出した私に真っ青になった侑は、オロオロしながら私の顔を覗き込んだ。

「出張から帰ったら裸で女と抱きあっとった」

絞り出した声はなんと情けなかっただろう。

「それはアカンやつやん…」

やってもうたと顔を手で覆い数秒そのままの姿勢で止まると、侑は妙案でも思いついたと言わんばかりに手を叩き一言私に言ってきた。

「なら俺ん家に泊まったらええやん!」

何言っとんねんコイツ、BJの宮侑選手の家に女が出入りしたらファンに殺されるわ。



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