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「なぁ、あの子誰?」

BJの練習中、コートの外を走る女性を見てどこかで会ったことのあるような感覚に襲われた。

「この間から広報に入った人だって聞いてる」

「臣くんあの子の名前知っとるん?」

「紹介されたけど覚えてない」

話は終わったと言わんばかりに去った臣くんは置いておいて、紹介なんていつされただろうか。

と、いうか木っくんとかには話しかけるのに俺には一切近寄ってこない気がする。

「自分、名前なんて言うん?」

「…私ですか?」

「俺、名前聞いてへんと思うけど」

「…失礼しました。先週から研修で入ることになりました名字名前と申します」

よろしくお願いします、とお辞儀をした彼女はピクリとも表情を変えずに「仕事があるので失礼します」と俺と目線も合わさず向こうのほうへと走っていった。

長い銀髪に切長の目、どこかで会ったことがあるなら絶対忘れない容姿。
名前も聞いたことがないから知り合いではないのだろう。

多分俺に挨拶しなかったのは意図的。
いくら先週入ったばっかりとはいえ、他のメンバーに挨拶してるのに俺だけしてないのはおかしい。

しかも見ていると俺以外の人とはよく話している。
かといって避けられるようなことをした覚えはない。

「昔の好きな人に似てるって言ってたよ!」

唐突に湧いて出た木っくんに驚いたが、それよりも言われた言葉にびっくりした。
 
「木っくん何か聞いたん?」

「ツムツムのこと見て名前ちゃん驚いてたから聞いたんだけど『初恋の人に似てるんです』って言ってた!」

俺と似てる顔で、俺じゃない奴。
そんなん一人しかおらんやん。

「サム?」

「ミャーサムがどうしたの?」

「…木っくん、お願いあるんやけどええ?」

「いーよ!」

何も聞いてないのに簡単に返事をする木っくんに不安を覚えたが、俺がやると多分警戒されるから頼むしかない。

藁にもすがる思いで口にした。

「あの子、サムの店に連れてってほしいんやけど」



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