03

「あ、別に取って食おうとかそういうんとちゃうで」

「そんなん知っとるわ。侑の家に泊まる理由なんかあらへんやろ。普通にホテル泊まるわ」

「俺はしばらくサムの家に泊まるから名前は俺ん家使ってええて。実家引き払ったって聞いとるし、ずっとホテル暮らしは無理やろ?」

確かに侑の言う通りで、家が見つかるまでホテル暮らしは財政的にかなり厳しい。

「家が見つかるまでやし、好きにしてくれてええから!な?」

「…なんでそこまでしてくれるん」

「友だちには優しくするもんやろ?」

侑にとってはなんのメリットもなさそうだけれど、昔から友だちにはなんだかんだで優しいヤツだ。
今の私があまりに可哀想だから同情してくれているのかもしれない。

「…ええの?」

「おん!家まで案内するわ!あ、その前に腹ごしらえせなアカンな。サムの店行こか」

私の手を取り人混みを歩いていく侑は、どこかウキウキとしていて楽しそうだった。

「サムの店、ココやねん!」

ドヤ顔で私に教えてくれたが、実は治の店には二回ほど訪問したことがある。

一回目は高校の友人と、二回目は一人で。

侑の熱愛報道を聞いたときに、これで諦めるから付き合ってくれと店を閉めた後の治に愚痴を聞いてもらいながら飲んだのだ。

それなのにまさかその張本人と治の店に来ることになろうとは。

少し気まずさを覚えるが、お腹が空いているのは事実だし何より侑と二人きりで侑の家に行くのはいろんな意味でまずい。

治の店が終わるまで待って3人で向かうのがベストだろう。

「いらっしゃいませ…なんやツムか」

暖簾をくぐると聞こえた治の声に「私もおるよ」と侑の後ろから顔を出したら、目を丸くされてひどく驚かれた。

「名前ちゃん…久しぶりやな…」

「サム、この後ヒマか?」

「人が久々の再会を楽しもうとしとんのになんや」

「名前、彼氏と別れて行くとこないんやて」

「…ほんま?」

「ほんま…」

「ピーク過ぎたし、店の片付けしながら聞くわ。名前ちゃん、何食べる?」

侑の珍しく真面目な顔に治もふざけるのをやめ、優しい顔で私に何を食べるか聞いてくれる。

「明太子とネギトロ」

「すぐ作るから待ってな」

治の握る姿を見ながら、前もこうやって泣きそうな私の話をカウンター越しに何も言わないで聞いてくれたよなぁとぼんやり思った。



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