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色んな会社を転々として行きついた場所に、侑くんがいるなんて知らなかった。

前の会社で働いていた時に侑くんがバレーボール選手として活躍しているのは同僚から聞いていたが、どうせ自分とは関係ないと真面目に聞かなかったのが悪かったのかもしれない。

最初の挨拶の時に意図的に避けてしまってから、顔を合わすのも気まずくて話しかけることもしないで避け続けた。

別に向こうは私のことなんて覚えてもいないだろうから気にしなきゃいいだけなのだけれど、治くんと同じあの顔を見るだけで心臓が抉られるような気持ちになる。

「名前ちゃんはなんでツムツムと話さないの?」

真正面から私に疑問を投げつけたのはMSBYイチのムードメーカーである木兎さんだった。

「…たまたまじゃないですか?」

誤魔化せればよかった。
ニッコリと作った顔で笑ってそう言ったのに、木兎さんは首を傾げて「喋ってるの見たことないよ」と口を尖らせて私に反論をしてきた。

普段底抜けに明るくて真面目な話なんて全然しないのに、なんでよりによって私にそういう話をするんだろうか。

誤魔化せない。

そう思うくらい、私に問うその言葉は鋭く逃げようがないくらいに真っ直ぐだった。

「初恋の人に似てるんです」

ポロリと溢した本音は自分でも驚くほど憂いを帯びていて、未だに忘れられないでいるあの恋が自分の中でどれだけ大切なのかを思い知らされる。

私のこたえに満足したのか「それじゃあしょうがないね!」と笑って去っていこうとした木兎さんに、どうか本人には伝えないでくれと言ったけれど、果たして木兎さんの耳に届いたかは謎である。



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