07
朝、味噌汁のいい香りで目が覚めた。
アラームが鳴るよりも早い時刻でベッドから起きるか迷ったけれど、盛大に鳴った腹の音は気の持ちようで誤魔化せるわけもなく匂いにつられるようにキッチンの方へと向かった。
テーブルには朝にも関わらずキッチリとした和食が用意されていて、冷蔵庫にこんなに食材があっただろうかと首を捻る。
「おはよう」
起きてきた俺に気づいた名前が「ご飯できてるからもしよかったら食べて」と声をかけてくれ、一先ず洗顔等を済ましテーブルへ着くと茶碗に炊き立ての白米をよそって出してくれた。
「こんな食材あったか?」
「朝早く目が覚めたから散歩がてら近所のスーパーに行ってきた。侑の好みわからんから適当に作ってもうたんやけど、嫌いなのあったら残してええからな」
幸いにして嫌いな食材は入っていないようで、空腹に耐えかねた俺はいただきますと手を合わせ名前の作ってくれたご飯を掻っ込んだ。
煮物は口にジュワッと広がる出汁が上品だし、炒め物は白米がよくすすむ。
名前の手料理を食うのはこれが初めてだけれど、素人とは思えないクオリティに舌鼓を打つしかない。
「名前、プロかなんかなん?」
「栄養管理士の資格は持っとるし、調理師免許も取ってるよ。知らんかったっけ」
そう言われると名前とこうやって二人きりになるのは高校以来で、高校のメンバーで集まった時もお互いの話をすることはなかったので名前が今何をしているかなんて全然知らなかった。
「いつでも嫁にいけるなあ」
「もらってくれる人がいたら、やな」
しまった。
ふと口にした言葉は本心からだったけれど今の名前にとっては地雷でしかない。
「こんだけ美味けりゃいくらでも貰い手おるやろ!」
フォローした言葉も虚しく名前は悲しそうに笑って「私、仕事あるからそろそろ出るな」とそのまま玄関へと行ってしまった。
「夕ご飯、家で食べるなら作るからLINEしといてや」
いってきますとこちらを振り返りもしないで行ってしまった名前の背中は悲壮感が漂っていて、折角家に泊めたのに何の助けにもなっていないどころか追い討ちをかけた自分にため息がでた。
もっと頼ってくれてもいいのに。
せめて夜は名前が一人で泣かないようになるべく早めに帰ろうと誓い、残りのご飯を急いで口の中へと運んだ。
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