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幸にして侑の家は私の職場に近くて、出勤に困ることもなかった。

かつての好きな人と同じ屋根の下、なんて聞こえはいいけれど相手は私のことをなんとも思っていないし、挙句「いつでも嫁にいける」なんて言ってくれた。

眼中にないのは知っていたけれどいざ言葉にされると結構悲しいものがある。

出勤時間には少し早かったけれど一緒の空間にいるのに耐えかねて出てきてしまったのは仕方ない話だと思う。

「はぁ〜」

盛大についたため息は予想よりも大きく響いてしまい、同じ病棟で働く山ノ井さんに心配そうに声をかけられた。

「名字さん、顔色も悪いけど大丈夫ですか?」

「あー、ちょっと寝不足で」

「睡眠不足は辛いですよね〜」

うんうんと頷く山ノ井さんは「俺で良ければ話聞きますからね」と優しく声をかけてくれたけれど、自分のやられたことと現状を話すわけにもいかずにただお礼を言うことしかできなかった。

こういう時は高校時代の友人か治に話を聞いてもらうのがいいのだけれど、今は住む場所を探すのが一番なのでそれすらも叶わない。

いや、そもそも治がこのわけのわからない状況を作り出したのだけれど。

兎にも角にも仕事を終えたらまず不動産屋に行かないと。

侑との二人暮らしなんて高校時代の私が聞いたら両手をあげて喜ぶだろうけれど、社会人になった今は喜ぶよりも女として見てもらえない悲しみの方が勝ってしまう。

一刻も早くあの家から出なければ私は一生侑に囚われたままで、まともな恋愛もできないで一人で死んでいくに違いない。

そんなのはごめん被りたい。



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