09
朝は和食のいい香りがするし、夜帰れば美味しそうな食事が用意されている。
しかも栄養バランスも考えられていて味も美味い。
チームメイトにも肌艶がよくなっただのいつもよりもコンディションがよさそうだのと言われるようになった。
どう考えても名前のおかげで、資格を持っているだけある。
聞いたところによると本人は俺の家から数駅のところにある病院勤務らしく、通勤時間が減った分楽になったから食事のことは気にしないでくれと言われた。
あまりに名前の飯が美味いので名前のいなかった日々がもう考えられなくて、表面上は住まい探しを応援しつつ上手くいかなければいいのにと心の中で思うのも仕方ない話だ。
いっそ彼氏なんか作らんでずっと俺の飯を作ってくれんかな、とサムにボヤいたら「最低やな。名前ちゃんは召使いとちゃうで」と結構キツく窘められた。
サムの言い分は尤もだけれど、一回掴まれた胃袋はなかなか離してもらえそうにもないし、またくだらない男と付き合うくらいならこのままいた方がマシだとも思う。
「ツムが名前ちゃんと付き合えば解決やないの?」
「ありえへんな。名前は妹みたいなもんや」
「妹て…同い年やん」
「同い年やけど、守ってやらなって思うやろ?」
「ま…なんでもええけど。いつまでも高校ん時のままやと思っとったら痛い目みるで」
サムの忠告も俺に限ってそんなことにはならんやろと思った。
むしろそんなことを言い出すサムの方が名前のことを女として好きなのではないだろうか。
「俺はナイスバディなお姉さんが好きなんや」
吐き捨てた言葉は、決して自分に言い聞かせるためのものではなかったと思う。
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