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「名前ちゃん今度ご飯一緒行こー!」

木兎さんからそんなお誘いを受けたのが先週。

そしてあれよあれよという間に日程が組まれ、今日の夜に木兎さんとご飯を食べることになった。

誰が行くのかと聞いたら、木兎さんだけだというので選手と二人で行くのはまずいと伝えると、「ならツムツムも一緒に行く?」と聞かれそれだけは断固阻止したくて結局二人で行くことにした。

「どこ行くんですか?」

「んー、俺が気に入ってるとこ!」

失礼かもしれないけれどなんでも美味しいと言って食べているのを見ていたので、食事にこだわりがないものとばかり思っていた。
まさか通いの店があるとは。

驚いたのが表情に出たのだろうか、
木兎さんは私の方を見て太陽みたいにニカッと笑うと「美味しーから名前ちゃんも気にいると思うよ!」と私の肩を軽く叩いた。

木兎さんからは悪意も感じられなかったし、ホイホイついていったのが間違いだったのだろうか。

くぐった暖簾の先にいた顔に、頭が真っ白になった。

心臓はバクバクと大きな音を立て、手足にジワリと嫌な汗をかくのを感じる。

「いらっしゃいませー。あ、どうも」

木兎さんを見てお辞儀をした人は、髪色は高校の時と違うけれど間違いなく治くんだった。

「ここね、ツムツムの双子のミャーサムがやってるとこなんだよ」

木兎さんの言葉に知ってますなんて言えなくて、ただ「そうなんですね」と適当な相槌を打つことしかできなかった。

だって治くんは私のことを覚えていない。

気づいてもらえない寂しさと、私の顔を見てもなんの反応もしない治くんに傷つくなんて烏滸がましい。
自ら遠ざけた結果じゃないか。

頭ではわかってはいても、それでも心は引きちぎれるんじゃないかってくらいに悲鳴をあげた。

でも、それを表に出すのはダメだ。

折角木兎さんが連れてきてくれたのだから今だけは何も知らないふりをしてご飯を楽しまないと。

泣いたら困らせるだけだ。

「名前ちゃんは何食べる?」

「木兎さんと同じやつでお願いします!」

私はちゃんと笑えていただろうか。



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