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「「「治、名前ちゃん、婚約おめでとう!!」」」

先日、治さんが高校時代仲良かったというバレー部のメンバーが揃い、私たちの婚約をお祝いしてくれた。

私は治さんが高校卒業してからの知り合いなので、双子の侑さんや北さん以外とは初めて会うその日はとても緊張していて、用意された料理はあまり喉を通らなかった。

みんな優しくてそんな私に気を遣ってくれたけれど、お互いの距離感が掴めなくて曖昧に微笑み合うしかなかったのは仕方がなかったと思う。

高校の人たちが大人になった今でもこうして集まってお祝いしてくれるのは治さんの人柄が如実に現れていて、そんなみんなから愛されている治さんと結婚できるなんて私は幸せだと思う。

そう、幸せすぎたのだ。

幸せすぎたからこそ、この幸せが本当に続くのかふと不安になった。

この人の隣にいるのは自分で大丈夫なのだろうか。
もっと相応しい人がいるのでは?

悲観的になった思考は簡単には浮上しなくて、鬱々とした気持ちが私の心を支配し始めた。

「名前ちゃん?最近元気ないけど平気?」

そんな私を心配そうに伺う治さんは、みんなが言う通り素敵な旦那さんになるんだろう。

じゃあ、治さんにとっての私は?

付き合っている時からずっと心の奥底で抱えていた劣等感がブワッと広がったのが、よりによって婚姻届を提出する予定の一週間前。

もう居ても立っても居られなくて、連絡が取れないようにスマホをリビングのテーブルに置き、通帳と印鑑、キャッシュカードを手持ちの鞄に詰めて、治さんがお店に出ている間にアパートから転がるように逃げた。

『ごめんなさい、気持ちに整理をつけてきます。探さないでください』

今思えばひどい書き置きだったと思う。

でも、当時の私は所謂マリッジブルーで、人のことなんて考える余裕もなくただこの息の詰まる空間から逃げることしか考えていなかったのである。



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