03

「逃げられた?」

結局、誰に相談するにしても角が立つのが目に見えていたので、一番信頼のおける北さんの家へと行き話を聞いてもらった。

「浮かない顔をしとるな、とは思ったんですけど…」

「お祝いの時もずっと困った顔しとったしなぁ…」

「婚約解消、になるんでしょうか」

「この書き置きからじゃわからへんなぁ」

「俺、名前ちゃんがいないなんて考えられへん…」

呟いた声は自分で思っていたよりも泣きそうで、どうしようもないこの状況に今まで堪えていたものが全部溢れてきそうになった。

「北さん、俺、どうしたらいいんでしょうか」

「整理つけてくるっていうんやから、帰ってくるんと違うかな」

あっさりとそう言った北さんの顔を見たら、俺があまりにも不安そうだったからだろうか珍しく困った顔をして「フラれるようなことしとらんやろ。大丈夫や」と優しく肩を叩き励ましてくれた。

「今は名前ちゃんのこと信じるしかないやろ」

「でも…!」

「治、しっかりしぃ。お前の好きになった子はどんな子なん?お前が信じてあげんでどうするんや」

ピシャリと言われた言葉に、背筋が伸びたような気がした。

「すいませんでした…!」

残された書き置きをぐしゃりと握り、勢いよく頭を下げる。

そうだ、俺が信じなくてどうする。

「気をつけて帰るんやで」

「はい、ありがとうございました!」

いつだって俺らの背中をしゃんと伸ばしてくれるこの存在に、今までどれだけ救われただろう。

俺らの大将が言うんやから、大丈夫や。
男ならドンと構えへんと。



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