松川さんと焼き芋
積もりそうなほど降る雪に、今日の予定を全部キャンセルして二人で炬燵で暖まっていた時だった。
『い〜しや〜きいも〜』
外から聞こえてきた石焼き芋の販売車の声に、さっきまで「寒い死んじゃう無理つらい」と駄々を捏ねていたとは思えないくらいの早さで財布を掴み、名前さんは玄関を飛び出した。
コートも着ないで走って行く後ろ姿に「風邪ひくよ!」と声をかけたけれど、聞こえたのかどうかも怪しい。
10分ほど経ったら、手と顔を真っ赤にした名前さんが帰ってきて「一静くん、買えた!!」と戦利品の焼き芋を嬉しそうに掲げたのには思わず笑ってしまった。
「名前さん、そんな焼き芋好きだったの?」
「一静くん、これはただの焼き芋じゃないんだよ!石焼き芋なの!!」
指を左右に振りわかってないなぁと言われ、何が違うのかと首を傾げる。
「石焼き芋はねぇ、すごく甘くて美味しいの」
紙袋から一本を取り出し半分に割ると、片方を俺へと渡してくれた。
「熱いうちに食べちゃお」
炬燵へと再度潜り、あったかーいと嬉しそうに暖まる名前さんは幸せそうな顔で石焼き芋へとかぶりついた。
「あちっ」
頬をサツマイモでいっぱいにして頬張る姿は子どもみたいで実に可愛らしい。
「ほら、一静くんも食べよ?」
食べた石焼き芋の味は甘くて、その懐かしい味に昔祖母が俺のためにと買ってきてくれたのを思い出した。
「美味しいね」
「でしょう!?あの声が聞こえたら買わなきゃって思っちゃうんだよねえ」
「今度はコート着ていってね。鼻の頭まで真っ赤だよ」
手で頬を包むとひんやりと冷たくて、俺の行動に目をぎゅっと閉じた名前さんの唇へ優しくキスを落とした。
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