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ぐったりとした名前を前に、徐々に思考が正常に動きだす。

名前の身体に咲いた華は先程までの情事を連想させ、取り返しのつかないことをしてしまったと真っ青になった。

名前は俺を信じて寝泊まりしていただろうに、こんな裏切りは絶対に許されるものじゃない。

そう思うのに、今こうやって寝ている名前を見て未だ欲情する自分がいる。

このまま隣にいたらまた襲いかねない。

名前に服を着せ、布団をかけると必要な荷物だけを鞄に詰め急いで家を出た。

行く先は当然サムの店で、先程店の締めが終わっていないと言っていたからまだ店にいるはずだ。

急いでサムの店まで向かうと予想通りまだ店の明かりはついていて、中にサムがいるのが窺える。

入り口は閉まっているだろうから裏口から入ると、扉の音に気づいたサムが俺の方を怪訝そうに見るのが見えた。

「あれ、なんでツムがおるん?」

サムの声に、なんて言っていいかわからないけれど何か言わねばと口を開けるのに、その次の言葉がでてこない。

俺の様子がおかしいのが伝わったのか、サムはハッとしたような表情をし、俺の胸ぐらを掴んで「名前ちゃんに何したんや」と地を這うような声で俺に詰め寄った。

「お前、まさか襲ったんちゃうやろな」

項垂れるしかない俺に、サムの右手が俺の顔面を凄まじい勢いで殴った。

痛かったけれど、自分が明らかに悪くて何もできないでその場に膝から崩れ落ちる。

「なんでや。女として見てないんと違かったんか」

「わからへん…。気づいたら手出しとった…」

「そんな言い訳あるか!」

「名前が俺の名前呼んだらたまらなくなって、なんで、何とも思っとらんかったのに」

「名前ちゃんは?」

「寝たから家に置いてきた。隣におったら何するかわからなくて怖いねん」

「名前ちゃんのこと好きなん?」

「好きってなんなん…?」

呆れた顔で俺を見下ろすサムは、しばらく考えた後「今日明日は泊まってってええけど、ちゃんとケリつけなアカンで」とだけ言って店の奥へと消えていった。



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