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「お邪魔しまーす…」
閉店後の店内に響く名字さんの声に、本当に来てくれたと胸を撫で下ろした。
「いらっしゃいって言うのもなんか変やな」
お互い久々に顔を合わすからか、二人の間にぎこちない空気が流れる。
「どこから、話せばいいんかなぁ」
眉毛をハの字に下げ困った顔でそう言いながらも、名字さんはひとつひとつ丁寧に説明をしてくれた。
自分が人間ではないこと。
離れると記憶から薄れてしまうこと。
そして、俺らとは寿命が違うこと。
「治くんとは、もう会わないつもりやったんやけど…なんでかなぁ…」
「それなんやけど、名字さんと行った夏祭りで屋台のおっちゃんから貰た石覚えとる?」
「あ、これ…?」
名字さんは鞄から小さなポーチを出すと、中からあの時の石をそっと取り出した。
とっていてくれているとは思っていたが、まさか持ち歩いてくれているとは。
「俺も持ってるん」
「え、だって覚えてへんのに…?覚えてへんかったらこんなんただの石やん…」
「捨てたらいかんような気ィして、ずっと大切に持っといたんやけど」
「そっか、これが治くんにまた会わせてくれたんやね…」
名字さんは少し俯いた後「もし治くんが持ってたら会うかもしれんと思っても捨てられへんかってん」と呟いた。
「未練がましかったんがいけなかったんかな?」
「そんなことあらへん!!」
「あの日の返事してもええ?」
じっと俺を見る瞳から目が離せない。
「私、治くんが好き」
息を大きく吸い、そう口にした名字さんはあの時の悲しそうな顔はもうしていなくて、覚悟を決めた表情だった。
「俺のが先に逝ってまうし、名字さんには辛い思いさせると思う。でも、その分笑わせたるから…もう離れんでほしい」
「うん、治くんの最期、私に看取らせてや」
「フッフ、名字さんイケメンやなぁ…」
「せやろ?」
お互い顔を合わせて、初めて話す本音。
この日は、夜遅くまで店の灯が消えることはなかった。
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