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「いい天気やなぁ」

秋も深まると、山の紅葉が赤く色づき、吹く風が少し冷たくなった。

近づいてくる冬の足音に凍てつくような寒さを思い出すけれど、今年はもう一人で過ごす日はないのだと思うと、それすらも待ち遠しく感じる。

「治くん、袴よう似合っとるね」

「名字さんも白無垢素敵やで?」

「治くん、私もう名字さんと違うで」

「あー、せやった。まだ慣れへんのや…」

少し頬を染めて恥ずかしそうに笑う名字さん…もとい、名前ちゃんは実に可愛らしい。

「にしても綺麗な銀髪なんに隠れてまうの勿体ないなあ」

「神社やからウェディングドレスは着られへんし仕方ないやろ?」

「名字ちゃんのドレス姿も見たかったから残念や…」

「写真だけなら撮ってもええよ?」

「ほんま!?」

「ほんまほんま。私かて治くんのタキシード姿見たいもん」

「ぃよっしゃ!!!」

名前ちゃんに仕えている神様がいる以上、神社での式を行うのは確定だった。

写真だけでも名前ちゃんのウェディングドレス姿が見られるとは。

何事も言ってみるもんだ。

コンコン

他愛無い会話をしていると、控室のドアを叩く音が部屋に響いた。

「どうぞ」

「失礼します、式の準備が整いました」

いよいよ、である。

顔を見合わせて立ち上がり促されるまま外へ出ると、先程までは降っていなかったのにパラパラと雨が降り出した。

見上げると太陽は眩しいほど照っていて、雨粒が光を反射してキラキラと輝いている。

「晴れとんのに珍しいなあ」

「治くん、知らへんの?」

「え、何が?」

「晴れてる時に降る雨のこと、狐の嫁入りって言うんやよ」

“狐”

そのワードに驚いて名前ちゃんの顔を見ると、ニィッと糸のように目を細め、口元は弧を描いている。

「なら今日降るんは仕方ないなぁ…」

「せやろ?私らの式にピッタリやん?」

シトシトと降る雨はどこか幻想的で、それを背景にクスクスと愉しそうに笑う名前ちゃんは、この世のものとは思えないくらいに綺麗だった。

「えらい綺麗な嫁さんもろたなぁ」

「ふふ、末永くよろしくお願いしますね、旦那さん」



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