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サムと散々話して、自分の気持ちに整理はつけたつもりである。
久しぶりに街で見かけて思わず声をかけるくらいに会いたかったのも、これ以上何処かに行ってしまわないように無意識に自分の元に留めたのも、サムに言わせれば“バレー以外で初めて見せる執着”だったらしい。
言い訳を連ねるようだけれど、名前は高校を卒業し、しばらくしてから連絡がプツリと取れなくなった。
実家は名前が家を出たのを機に引っ越してしまったし、頼みの綱のサムも知らないの一点張り。
特に喧嘩をしたわけでもないのにも関わらず急に希薄な関係になってしまった名前に、当時の俺はそれなりにショックを受けたのである。
そんな名前を街中で見つけた時の俺の胸中は、言葉にせずともわかってもらえるだろう。
一言二言喋って、連絡先さえ聞ければそのまま帰るつもりでいた。
でも名前を呼んで振り返った名前の顔が今にも泣き出しそうで、つい手元に留めてしまったのだ。
それが恋心からなる執着だとつゆほども思わずに。
だから、名前に熱を帯びた声で呼ばれた俺の名前が、あんなにも俺の心を乱すなんて知らなかった。
恋とは、こんなにも感情に揺らぎを与える物なのか。
自分の中にある感情に名前がついたところで、漸く名前に会う決心がついた。
名前には全てを話し、きちんと謝った上で自分の気持ちを伝えよう。
そう思っていざ連絡を取ろうと久々にスマホを手にし、名前からきていたメッセージを確認した途端、身体中の血の気が引くのがわかった。
『お世話になりました』
たった一言だけれど、今の自分たちを繋ぐ関係に終わりを告げられたのがハッキリとわかる。
まさか未だ居住地の見つからない名前がどこかへ行ってしまうなんて思いもしなかった。
慌てて返信をするもいつまで経っても既読はつかず、どう考えてもブロックされているとしか思えない。
あの夜名前が口にした俺のことを好きという言葉は聞き間違いだったのだろうか。
嫌がらなかったし、行為の最中も俺の名前を呼んでくれたので合意の上だと思っていたけれど、よくよく考えてみたら酔っ払いにそんな判断をさせること自体間違いだし、そんなつもりはなかったと言われれば悪いのは間違いなくこちらだ。
それこそLINEのブロックなんかじゃ済まない事態になる。
告白して晴れて恋人同士になれるかと、少しでも浮かれた自分のお花畑さに呆れるしかない。
「どうすりゃええんや…」
呟いた嘆きはサムの「ツム、店の奥に隠れてろ」という一言に掻き消され、人を人とも思っていないような扱いで店の奥へと放り込まれた。
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