ルピナス

折角の誕生日だというのに、仕事が急に入ってしまい、終わった時には23時を悠に回っていた。

葬儀屋という仕事柄、お迎えの依頼が急に入ることは珍しくないし仕方のないことだとはわかっていても、今日を楽しみにしていた名前さんのことを思うとため息を吐かずにはいられなかった。

昨日、名前さんから『明日は一静くんのお家で誕生日パーティーしようね。一静くんは何が食べたい?』ときていて、名前さんの誕生日の時にも仕事が入って当日にお祝いできなかったのに、と申し訳ない気持ちが募った。

そもそも制約が多すぎる。

お店を予約したりすれば不測の事態の時にいちいちキャンセルしなければならないのが面倒くさいし、こちらがこの日だけはと確保した休みも不幸が重なれば容赦なく連絡がくる。

名前さんと付き合って随分経つのに、記念日や誕生日をきちんと祝えたことなんかほぼないに等しい。

今日だって帰る頃には日付変更間近だし、名前さんが折角作ってくれたご飯も冷えてしまっただろう。

名前さん自身も明日は仕事だろうしもう家に帰っていると思う。

一目会うだけでよかったのに、それすら叶わないなんて。

深いため息を吐き、家の玄関のドアを開けると、目の前に色とりどりの紙が激しい音とともに飛び出した。

「一静くん、お誕生日おめでとう!」

音の主は名前さんで、帰ったはずじゃなかったのかとか、明日仕事なのにこんな時間までいて平気なのかとか、そもそも終電もうないんじゃとか、言いたいことがありすぎて何から言おうか迷う。

「一静くんの誕生日だからね、何があるかわからないから次の日もお休みとったの」

「お腹空いてる?ご飯作ったけど食べる?」と俺の着ていたコートを脱がし、リビングの方へパタパタと走る名前さんを見て、堪らなく愛おしい気持ちになった。

「名前さん」

ギュ、と包み込むように抱きしめれば、名前さんから「おかえりなさい、一静くん」と嬉しそうな声が聞こえる。

「ただいま。今までで一番嬉しい誕生日かも」

「そう?それならよかった」

「また来年も一緒に祝ってくれる?」

「来年だけじゃなくて、再来年もそのまた次の年もずーっとお祝いするよ!」

この可愛い恋人は、どれだけ俺のことを喜ばせてくれるのだろうか。

「ありがとう、名前さん。大好きだよ」

「ふふ、一静くん、私も大好き!」



花言葉:いつも幸せ

ハッピーバースデー、松川さん!



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