02
サムの言っていた通り、件のパティスリーは開店前にも関わらず列ができていた。
向こうも想定済みらしく列を整えるスタッフが外にいて、並ぶとすぐにメニューが書かれたチラシを手渡される。
待つ時間も暇なのでチラシを眺めると、どうやらオープン当日限定のものや先着20名限定のノベルティもあるらしい。
なんとなく気になって並んでいる人数を数えれば俺で8人目。
限定のケーキがいくつあるかは知らないけれど、もしかしたら買えるかもしれない。
ノベルティはシンプルな使いやすいエコバッグだし、貰っておいても損はないだろう。
サムは北さんの分も含めて6つと言ったけれど、渡されたのは5千円札だし少し多めに買っても文句は言われないと思う。
久々に食べるケーキを想像したらお腹が勢いよく音を立てた。
「あら、治ちゃん今日お店はええの?」
俺の腹の音に振り向いたおばさんはどうやらサムの店のお客さんみたいで、俺の顔をみるなり話しかけてきた。
しばらくこの列にはいないといけないし、ここで自分の正体を明かすのは得策じゃないだろう。
「仕込みも終えたんで買いにきたんです」
「ここの店主さん、関東で人気のお店で働いとったっていうもんな!治ちゃん甘いもん好きやしどうするかなって思っとったんよ〜!」
「何買うか決まっとるんですか?」
「悩んでるんやけどね…」
流石関西のオバちゃん、話し出すと止まらない。
俺がサムじゃないことも全然気づかずに、おしゃべりは店が開くまで続けられた。
「あ、私の順番来たわ!」
「ほんまや。またお店来たってくださいね〜」
「治ちゃんとこ持ち帰りもやっとるからこの後寄らしてもらうわ」
「おおきに〜」
おばちゃんが入った後しばらくするとまた一人お客さんがでてきて、入れ替わりで店内へと足を進めた。
入ってみると中は想像していたよりもシンプルな作りだった。
「いらっしゃいませ!」
サムの言っていた有名なパティシエールさんとやらが彼女なのだろう。
元気な声で俺へと笑いかけてくれたその顔に、一瞬で落ちた。
めっちゃ可愛え。
どのケーキを選ぶかなんて頭から吹っ飛んで、値段の高い順にサムから頼まれたのより二個多く選んだ。
勿論箱を別にしてもらうのを忘れずに。
そしてお会計の時、俺の顔を見て店主さんは何か気づいたような顔をした。
これはアピールチャンスやないか!?
「あの、おにぎり宮の店主さんですよね…?ここの下見の時から気になっとったんです。今度お伺いさせてもらいますね!」
彼女の口から放たれた言葉は、無情にもサムの店への関心だった。
被ってきた帽子と瞳の色が隠れるサングラスが悪かったのは一目瞭然で、彼女の言葉にただ「お待ちしてます…」と笑って返すことしかできなかった。
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