「なー、黒のペンキどこいった?」

「買い出し班まだもどらへんの?」

「メニュー表できたで!覚えてほしいから接客組こっちきたってや〜」

そんな声が飛び交い、各々が文化祭の準備を進める。
私のクラスはメイドカフェで女子はメイド、男子は執事の格好をして接客する。
売り上げは文化祭後の打ち上げに全額回せるので、みんなの士気がすごい。

クラスだけでなく、部活での出し物やステージもあるので毎年大盛り上がりの文化祭を前に、みんなどこか浮き足立っている。
今日も文化祭を意中の彼と周る約束をしたとか、何組の誰と誰が付き合ったとか大忙しである。

実際うちのクラスにもカップルは何組か誕生していて、クラス内もどことなく甘い雰囲気が広がっている。

「名前は誰か誘わへんの?」そう友人に聞かれたが「店番もあるし特にええかなあ」とこたえた。


そして本番当日。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」そんな掛け声とともに私たちのカフェはオープンを迎えた。

女子は普段よりも少し濃い化粧と、クルクル巻いた髪の毛、そして可愛い衣装を身に纏い接客にあたる。
学内だけでなく学外からも人はくるので、出会いを求めてみんな目の奥が燃えている。

「折角やからイケメンとお知り合いになりたい!」と叫ぶのは我が友人で、それに付き合わされて私もクラスの宣伝へと駆けずり回される。

「2-3でメイドカフェやってまーす」

「ぜひ来てくださ〜い」

少し高い声でなるべく可愛く声をかけ、ニコニコ愛想笑いをして、時には可愛いポーズをとって必死に売り込む。

「あれ、もしかして名字さん?」

そう声をかけてきたのは去年クラスの一緒だった角名くんだった。
一時期席が近かったこともあって結構話すようになった。

「あれ、角名くんやん」そう名前を呼べば「格好かわいいね」と褒めてくれたので「せやろ?」とその場でくるくる回ると「馬子にも衣装じゃん。化けたね〜」と失礼なことを言ってくる。

「うちのクラスメイドカフェやっとるから是非来たってや」

「名字さんいついるの?その時にバレー部の人たち連れていくよ」

「え、あのイケメン集団連れてくるん?女子が喜ぶわ〜。私がおるのは午後やな!おまけしたるで〜」

「わかった、じゃあまたあとで」

「おおきに〜!」

手を振って角名くんとは別れ、午後にバレー部が来てくれることを女子のグループLINEへ投下する。
すぐに既読が何件かつき『名前えらい!』『よくやった!』などと褒め言葉をいただいた。

そして午後、本当に角名くんはバレー部の人たちを連れてきてくれた。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

定型の挨拶をすれば「本当にそれ言うんだ」とスマホを構えられながら笑われた。

角名くんとはわりと仲がいい方だと思うが、他のバレー部の人たちとは喋ったこともなかったので「ご注文がおきまりになりましたらお呼びください」と言って席を後にした。

「なあ名前」そう友人に声をかけられ「なに?」と聞くと「あんためっちゃ侑くんに見られとるやん」と言われる。

そう、入ったときから侑くんがずっと見てくるのである。
何か粗相でもしたかと考えるが、案内するだけだったし特に何もしていないはず。
ただでさえデカい図体してて威圧感あるんだからやめてほしい。

「注文お願いしまーす」と角名くんに呼ばれ席へと向かう。

「オレンジジュースと、烏龍茶と…」角名くんが注文を言い、私がそれを繰り返す。
その間も侑くんの視線はずっとこっちを向いたままで、なにか言ってくればいいのになんなんだ。

注文されたものにおまけのクッキーをつけ席まで運び「ごゆっくりどうぞ」と伝え「ありがとう」と言われたので私も他の仕事へと戻った。

お昼ご飯も終わる時間になるとステージがメインになり、ミスコンとミスターコンや軽音部の演奏、告白大会などがある。
参加は学外学内関係なく自由で、その場の勢いで告白する様はなかなか見応えがある。

ふとクラスメイトが思いついたように「告白やなくて宣伝しにステージのぼったらええんちゃう」といい「移動販売もしてけばええな」「残ったダンボールで箱作ってテープつければええかな」とステージに客をとられて暇そうだった子たちがバタバタと動き出した。

「宣伝係り誰行く?」「今いる面子の誰かでええんちゃう」「あ、名前ちょうど看板持ってるやん」「ほな、名前行ってきてや」となんとも雑に送り出され、トボトボとステージへむかった。

ステージの進行係の人に声をかけ、宣伝をお願いすると快くOKしてくれ「次は2-3の子がクラスの宣伝をしたいそうです!」とステージ上へと呼ばれた。

目立つのが嫌いな私だが、クラスの売り上げもかかっているので精一杯の笑顔で「2-3でメイドカフェやってます!ご主人様のお帰りをお待ちしてます」といいハートマークを作りウインクをする。

ステージの盛り上がりも相まって「可愛い〜」とか「俺のメイドになってくれ」とかかけ声がかかる。

笑顔を絶やさないようにステージを後にしようとしたら「おっと、ここで今のメイドさんに告白したい人がいるそうです!」と係の人に言われステージ上へと戻された。

誰だそんな空気の読めないことするやつはと内心舌打ちをしながら、ステージの先をみる。

男の子は顔を赤らめながら私の方へと向かって「一目惚れしました!僕と付き合ってください!」と叫んだ。
私は問答無用で「ごめんなさい!」とだけ言い、全力で逃げた。

クラスへ戻ると先程のステージを見ていたクラスメイトたちにからかわれ、散々だった。

その時、クラスの扉が開き大きな声で「名字さん!」と私の名前を呼ばれた。

声の先をみると侑くんがいて、その声の大きさにみんな「なんやなんや」と言って集まりだした。

「俺の方が名字さんのこと好きやから!!俺と付き合うてくれ!!」

そう叫んだ侑くんに一瞬時が止まり、周りが「侑が告白した!」「名字さんどないすんの!?」と騒ぎ出す。

いきなりの事態に頭が真っ白になって戸惑っていると、治くんが「ツムのアホ!こんな公衆の面前で言ったら迷惑やろ!」と侑くんを蹴飛ばして、そのまま回収していってくれた。

もうそのあとは文化祭どころじゃなくなって、クラスメイトに後をお願いして私は屋上へと避難した。

さっきの様子をみていた角名くんからLINEがあり、『今どこいるの?』と聞かれたので『屋上』とこたえた。

しばらくすると屋上の扉が開き、角名くんかと思い顔をあげれば、そこには侑くんがいた。
思わず逃げようと走るがそこは運動部、ガッチリ腕を掴まれ阻止された。

「名字さんが好きやねん」と先程も言った内容を言い、侑くんは「さっきはすまんかった」と謝ってくれた。

「恥ずかしかったです」と言えば「告白されとんのみて焦った」と唇を尖らせて拗ね「返事は?」と聞かれる。

返事も何も、私は侑くんと話すのはこれが初めてなはずである。

「私侑くんと話すの初めてやんな?よく知らん相手と付き合うとかはしないんやけど」

「宮侑、バレー部でセッターやってます」

大真面目に自己紹介をしだした侑くんに虚をつかれ「それは知っとるわ!」と笑えば「じゃあどうすればええんや」と不貞腐れる。

見た目も派手だし、身長とかも相まって怖いイメージがあった侑くんが少し可愛く見えた。

「付き合うて」

「友だちからなら」

「それはアカン」

「じゃあ…」

「断るのはもっとアカン!」

そしてなかなか折れない侑くんに私が根負けして付き合うことになるのは30分後のことである。


花言葉:不屈の精神



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