03
こちらがランチの仕込みをしているにも関わらず朝から暇だと邪魔してくるツムに、今日オープンのパティスリーへと買い物に行かせた。
今日は北さんも午後に来るしお茶請けに丁度いいと思ったのと、そこの店主がコンクールで入賞経験のある人だとお客さんから聞いたからだ。
どうせご近所さんだしいつかは顔合わせもするだろう。
それなら話の種に食べておくのもアリだと思った。
6つとは言ったもののツムが多く買ってきてもいいように渡した5千円札は、多分想定通り小銭で返ってくるはず。
なんだかんだでツムも甘いものが好きだし、多分混んでる店内で長々と選ぶのは難しいだろう。
仕込みも最終段階に入った時に裏口の扉が開く音がしたのでそちらへと顔を向けたら、ケーキを買いに行ったとは到底思えない顔のツムがいた。
「え、なんやその顔」
思わず声をかけるほどに死んだ目をしたツムはファン感で滑った時並だ。
「パティスリーの店主さんめっちゃ好みやった…」
「ほんならなんでそんな顔しとるん」
「俺に気づいた顔したと思ったら『おにぎり宮の店主さんですよね?』って微笑まれた俺の気持ちがわかるか!?」
「そらその帽子とサングラスやったらそうなるわ」
「目立ってもそのままでおったらよかったんか!?」
「お店に迷惑や」
その後もずっと暗い雰囲気で店の片隅にいるツムがあまりに邪魔で、ひとまず店の奥へと放り込んだ。
それにしてもツムが誰かに一目惚れするなんて初めてのことじゃないだろうか。
今まで真面目に恋愛してきたのなんか見た試しがない。
もしかしたらこれから始まるかもしれないツムの初恋に、いいネタができたと一人微笑んだ。
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