04
買ってきたケーキは噂に違わぬ美味しさだった。
とろけるような舌触りの生クリームとふんわりと焼かれたスポンジは口の中で絶妙なハーモニーを奏でて食べる人を幸せへと運んでくれる。
多少お値段はしたけれど、この味ならば寧ろ安いと言えるのではないだろうか。
「俺はサムやないのに…」
折角美味いもんを食っているというのにしけた面をしているツムは心ここに在らずといった具合で、味がわかっているかすら怪しい。
「ちゃんと食わへんなら残り俺が全部食うけどええんか」
「アカン!!!」
「うお、急に大声出すなや」
他のケーキへと手を伸ばそうとしたら、すごい勢いで箱ごと抱え込まれた。
「俺が買うてきたんやから俺のもんや!!」
「金出したのは俺やぞ」
「ぐっ…」
「ま、食べてしもたらまた今度買いに行けばええんちゃう。味の感想でも言えば喜ぶかもしれんなあ」
「なら明日にでも…」
「アホか、その頻度で買うたらケーキで破産するわ」
いくら片割れの初恋といえども、締めるところは締めないと本当に毎日ケーキを買ってきそうで困る。
「ツムの練習が休みの日に買いに行ったらええんやない」
「せやな!!」
途端に嬉しそうな顔に変わったけれど、次行く時は宮侑として行くんやろか。
「次の休みが楽しみやなあ!」
機嫌の直ったツムに、今は水を差さないでおこうと、頭によぎった疑問はひとまず飲み込むことにした。
back