05
「クソ川遅ェな」
「掃除当番だって言ってたからそろそろじゃない?」
「お、噂をすれば…ん?女の子に声かけた」
花巻の言葉に、また及川の悪い癖がでたかと呆れながら顔をあげると、その女生徒の顔を見て自分が息を呑んだのがわかった。
この間会ったばかりで向こうも俺に気づいたのか、大きい目をさらに見開いているのが見える。
何を話しているのかはよく聞こえないけれど、馴れ馴れしく彼女に触れる及川に嫌悪感を覚え、思わず顔を顰めてしまう。
…自分の目つきがあまり良くないのは、わかっている。
俺の顔を見た瞬間、青褪める彼女にやってしまったと思い慌てて表情を戻したけれど、彼女はもう俺から視線を外していて、そのまま足早に図書館を後にしてしまった。
「ヤッホー、遅れてごめんね?」
彼女から避けられたことに落ち込む俺の気持ちも知らないで、及川がした能天気な挨拶に思わずため息が漏れる。
「あれ、まっつんなんか機嫌悪い?」
「クソ川が女のケツ追っかけてっからだろ」
「ちょっと岩ちゃんそれは誤解ですゥ!」
「なー、及川。今のコ誰?すげーカワイイじゃん」
「でしょ〜!あ、マッキーは惚れちゃダメだよ?」
「は、何?お前の彼女なの?」
「どうだと思う?」
「ウッザ。その反応は彼女じゃねーな」
「ウザいって言わないで!まぁ、彼女じゃないんだけどね〜」
「クソ川うるせェ。黙って勉強しろ」
カリカリとノートに文字を書く音が響く中で、及川の「彼女ではない」という発言にホッとしたのがバレないようゆっくりと息を吐いたけれど、人のことを観察することに長けているこの主将に動揺を悟られないなんて到底無理な話だったのかもしれない。
俺の方を見て及川がニヤリと笑ったのは、決して見間違いではなかったと思う。
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