05

月曜日は名字さんのパティスリーでケーキを買うのが当たり前になった。

少しでも話せるのが嬉しくて毎週足繁く通っているおかげか、名字さんの方も俺のことを名前で呼んでくれるようになったのだが、呼ばれるのはサムの名前。

というのも、最初に行った次の週に帽子も被らずに向かったら行く途中行く途中で声をかけられて、結局適当な店で帽子とサングラスを買う羽目になり、入店した時には向こうも見知った顔が来たと喜んで「またきてくれはったんですか?」と言われてしまった。

たった一言「サムとは双子なんです」と言えばすむだけなのに、おにぎり宮のおにぎりが美味しいと嬉しそうに話す名字さんに切り出すタイミングを見失って未だ話せずにいる。

時たまサムの店にも来ているらしく、来るたびに「今名字さん来てるで」と連絡はしてくれるのだけれどタイミングが悪く練習中ばかりで気づいた時には時すでに遅し。

名字さんにとって毎週買いにくる俺はサムで、まさか違う人だと思ってもいないんだろう。

「今日から秋のケーキが始まったんですよ〜!この間カボチャだけやなくてさつま芋もお好きやっておっしゃってたから作ってみました!」

ニコニコと楽しそうに話してくれているけれど、俺はその話をした覚えがない。
つまり、さつま芋のケーキを食べたがってるのはサム。
俺としては隣のぶどうのケーキが気になるのだけれど、名前を借りてる以上買っていくのはサムの好物。

「じゃあ今日はさつま芋とカボチャの二つにしますわ」

「自信作なんで楽しみにしててくださいね」

丁寧に箱に入れて渡してくれる名字さんは本当に楽しそうで、きっとこれは店主と常連というよりはお互い自分のお店をもつ同士ならではの会話なのだろう。

どれもこれもサムのおかげで成り立っているこの関係に、果たして俺の入る隙間なんてあるんやろか。

「そういえばいつも二つ買っていかれますけど、全部治さんが召し上がってはるんですか?」

「え、あー…双子の片割れと食べとるんやけど…」

「あ、BJの宮選手でしたっけ?治さんのお店にサイン飾ってありますよね〜!」

それ、俺のなんやけど。

喉まででかかった言葉は、この関係が壊れるのが怖くて結局口にすることはできなかった。

「今度試合に来てくれたら喜ぶんちゃうかな」

「治さんのお店も出店してるんですっけ?今度行ってみようかな〜」

「楽しみにしとるな」

「私も楽しみです!あ、お会計864円です」

「ほなコレで」

キャッシュレス決済でお願いしてケーキを受け取ると「またいらしてくださいね」と手を振ってくれた。

名字さんからの好意を感じるのは俺の勘違いではないと思うけれど、それが一体“月曜に買いに来る宮さん”に向けてなのか“おにぎり宮の店長”に向けてなのかがわからなくて思わずため息を吐いた。



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