06

及川先輩と会ったあの日以来、学校の図書館に寄れないでいる。

試験で混み合っているからというのもあるけれど、一番の原因はやはり彼だろう。

最初に微笑んでくれたのを思い出すと今も私の胸は高鳴るのに、一瞬であの冷たい目が脳裏に浮かび、気持ちがどんどん萎んでいくのだ。

好きかと言われると、好き。

もう一度笑ってほしいし、できることなら声を聞いてみたい。

けれど、話しかけたところで彼にとって私は知らない人だし、またあの冷たい目をされたらと思うと怖くて足が竦んでしまう。

あの時、逃げずに及川先輩についていけば名前くらいは知ってもらえたかもしれない。

そう思わずにはいられないが、あの場で彼らに混ざるのはどう考えても悪手だろう。

私が上手く振る舞えると思えないし、及川先輩にバレて揶揄われるのが関の山だ。

でも、彼に会いたいという気持ちは日に日に募っていくばかりで、決して冷めてはくれなかった。

それというのも、あの時偶々手に取った本の内容が恋愛小説で、図書室で出逢った二人がお互いの知らないところで恋心を募らせる物語だったからだ。

自分が彼に想いを抱いた時のような出逢い方に、私が主人公に感情移入をしたのは言うまでもないだろう。

緻密に描かれた物語は私の心を躍らせ、私が彼に恋をすることを許してくれたかのように思わせた。

勿論、実際の恋は物語のように上手くはいかなかったのだけれど。



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