06

「久々に名前の恋バナが聞けるって言うから来たんやで?」

最近忙しくて会えなかった友人からメッセージが来て、つい話の流れで好きな人ができたかもしれないと返したらすぐさま予定を組まれあれよあれよという間に会うことになった。

「好きかもしれんってだけでまだ好きになったとは言うてへんやん!」

「そんなのはええねん。で、誰なん?」

ズイッと身を乗り出し私に詰め寄る様はさながら刑事のようで、少なくとも恋バナを聞いているようには見えない。

「や、私のお店の近所にあるおにぎり屋の店主さんなんやけど…」

今まであったことを掻い摘んで話すと、友人は不思議そうに首を傾げた。

「店に来てくれる時はドキドキするけど、その人のお店で会う時はなんも思わへん、なあ…」

「不思議やろ?」

「向こうも接客中やし、名前もそれ気にしてそういう気分にならへんからとかと違うの?」

「んー…そういうんやないと思う…」

「とりあえずその人見てみたいしこれからお店行こ!善は急げ、やで!」

私の返事を聞く前にとっとと荷物をまとめ出した友人は、きっとお店に行くと言うまでとまらないだろう。

諦めるしかないとため息を吐き、治さんに『今から友人とお伺いします』と急いで送り、鞄を手にレジへと向かった。

「治さんに変なことは絶対言わんでな?」

「変なことって何?名前が貴方のこと好いてます、とか?」

「それは一番言うたらアカンやつや!」

「あはは、冗談やって。ただ名前が惚れた相手を見てみたいだけやから安心したって」

「まだ惚れてへん!」

「まだってことは時間の問題やん」

そんな掛け合いをしながら歩くこと15分。

酔いも少しずつ覚めお腹も程よく空いてきた頃に、おにぎり宮の暖簾が見えた。

「あ、ほら、あそこ」

「楽しみやなあ!行くこと言ったんやろ?」

「一応メッセージは送ったんやけど忙しくて見てへんかも」

「ま、ええわ。とりあえず入ろ入ろ」

店の中へ入ると、私の顔を見てニコリと笑った治さんが「名字さん、いらっしゃい。今日は何にする?」と穏やかな声で私に挨拶をし、メニュー表を渡してくれた。

「今日のオススメなんですか?」

「んー、これとこれやな」

メニューを指差し教えてくれる治さんに友人の分も含めて注文をすると、治さんは思い出したように引き出しからなにかのチケットを取り出した。

「名字さん、これこの間言うてたBJの試合のチケットなんやけど」

「あー、双子の侑さんのチームなんですっけ?」

「せやねん。うちも出店するから観に来いひん?」

「え、でもチケットって高いんじゃ…」

「初回出血大サービスや!…って言いたいとこやけどこれツムから貰たもんやからタダやねん。名字さんバレー見たことあらへんって言うてたやろ?その話したら是非来てほしいって」

「なんかすいません…」

「気にせんでもええねん、ツムが勝手にやったことやから。…で、どう?」

もともと誘われていたのもあるし、断る理由もないので一緒に行けるかと確認の意味を込めて友人の方をチラリと見たら無言で頷いたので「じゃあありがたくいただきますね?」とチケットを治さんから受け取った。

「ツムの活躍、見てやってな」

ニコリと笑った治さんにどこか違和感を覚える。
ただ観にいってほしい、それだけじゃない気がしたのだ。

席に着くとやはり友人も不思議に思ったようで「名前、侑さん?と知り合いなん?」と首を傾げられた。

「いや、会ったことないはずやけど」

「会ったこともあらへんのにこんないい席用意してもらえたん?」

「え、あ!ほんまや!めっちゃいい席やん!」

「…ほんま会ったことないん?」

「あらへんと思う…」

治さんの双子というなら体格も同じくらいだろう。
そんな人いたらとても目立つし、一回会えば忘れないはずだ。

友人と二人でうーんと首を捻ってはみるが、結局これといった心当たりもなかったため、モヤモヤとした気持ちのままおにぎりが運ばれてくるのを待つしかなかった。



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