07
おにぎり宮からの帰り道、バレーのルールもわからず観戦するのは流石によくないかと思い、本屋へ足を運んでルールブックを購入した。
帰宅後、それをパラパラと捲りながらお酒を片手に治さんの双子の片割れがいるというBJのホームページを開く。
「えーっと…宮…宮侑…あ、おった。この人や」
#13…ポジション、セッター。
「セッター…はトスをあげる人やんな?…へぇ、バレーボールにおける司令塔なんや」
手元の本とホームページの文字を見比べながら侑さんの写真を見る。
本当に治さんと同じ顔で、髪と瞳の色が同じだったら見分けがつかないだろう。
「ん〜、やっぱ会ったことなんてあらへんと思うけど」
こんな金髪、見たら忘れないと思う。
…いや、おにぎり宮にはよく行くし、もしかしたらどこかですれ違ったのかもしれない。
自分を無理矢理納得させ、目の前のルールブックへと神経を集中させる。
基本ルールは高校の授業でもやったから飛ばすとしても、この本の内容を当日までにある程度覚えられるだろうか。
それに、本だけ見るのと実際に試合を観るのとでは違うような気もする。
「あ、せや。動画見ればええやん」
治さんも昔はやっていたと言うし、もしかしたら当時の動画があるかもしれない。
「宮治…だと出ぇへんかな?宮侑…あ!2014春高バレー!vs烏野高校?なんや、これ再生数多いな」
再生数も多いしと軽い気持ちで押した動画だったのに、用意したお酒も飲むのを忘れるくらい没頭した。
治さんも勿論すごいのだけれど、初めてバレーボールの試合をみた私ですらわかる、侑さんの人を魅了するトス。
スパイカーがどこにいてもズレることなくその手元に持っていく技術力。
そしてトスだけではない。
サーブの強烈さや治さんとの双子ならではの連携プレー。
「バレー…おもろいな…!」
動画だけでこの感動。
本物の試合を観たら一体どうなってしまうのだろうか。
おにぎり宮の出店もあり、治さんの双子が出てるならともらったチケットだったけれど、今となっては感謝しかない。
「折角やし応援ユニも買ってまお」
買うユニフォームの背番号は当然“13”。
「試合までに届くんやろか。…届くとええな〜」
今までに感じたことのない高揚に眠気も飛んでしまい、まるで遠足前の子どもみたいな自分に思わず苦笑いが溢れた。
**
「お、侑さんの応援ユニ着とる!」
「そういう千里もちゃっかり着とるやん〜」
当日、待ち合わせ場所へと迎えば、バレーなんて今まで見たことがないはずの千里がBJのユニを着ていて、お互いの格好に指をさして笑ってしまった。
「千里は…木兎さん?」
「せやねん!バレーのことなんも知らへんから予習しとこと思って動画見たらそこで『ボクトビーム』ってやっとってな!なんやえらい格好よくてつい買ってもうたん」
「千里は木兎さんのこと好きそうやな〜って思ったわ」
「やっぱわかる?」
「うん、ああいうムードメーカー的な人好きやんな?」
「名前も侑さんのユニなの治さんに気を遣ってとかと違うやろ?」
「試合見たら即落ちしたわ」
「即落ちて!浮気やん〜」
「や!それとこれとは違うやろ!…っていうか別に治さんと付き合うとるわけやないし!」
千里の言葉は自分の心の内を見透かされたような気がして、背中を冷たい汗が流れる。
動画の中の侑さんは本当に格好良くて、見ているだけで胸が高鳴った。
その胸の高鳴りが恋のソレによく似ていたのは、侑さんが治さんに瓜二つで重ねてしまっただけだと思いたい。
けれど、侑さんにそういう感情を覚えたことは間違いなくて、私の心は罪悪感に苛まれた。
“浮気やん”
千里の軽い一言が、重くのしかかる。
「名前?どしたん?」
俯いてしまった私を怪訝そうに見た千里に、無理に作った笑顔で「試合、楽しみやな」と返したけれど、心中は憂鬱でしかたなかった。
一体私はどんな顔で治さんに会えばいいのだろうか。
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