02


駅まで出ると、そんな感傷もパッと消え去るくらいの人混みに、来る場所を間違えたと一瞬で後悔する。

右からも左からも聞こえる溌剌とした関西弁に、懐かしさは勿論あるのだけれど、今はそれすらも騒音に聞こえ、逃げるように人の少ない方へと向かった。

高校生の時は気にならなかった街を行く他人の声も、拡声器を持って主張する宗教家や政治家の声も、道を走る車の音も、疲れている時に聞くとひどく精神が消耗する。

いち早く静かなところへ行くべく人を掻き分け足早に進み、やっと大きく息が吸えたような気がした場所は、駅から少し離れた商店街だった。

「あ…ここ…」

気づいたら足が向いていた、なんて言ったら彼らに笑われるだろうか。

行き着いた商店街は高校時代によく彼らと訪れた場所で、色んな場所の風景が変わっているのに、ここはあの頃と何一つ変わっていなかった。

部活帰りに食べた美味しいコロッケを売っているお肉屋さんも、試合帰りに寄ったラーメン屋さんもそのままだ。

「懐かし…」

少し強く吹いた風に目を細めると、あの頃の制服姿の彼らがいるかのような錯覚を起こす。

いつも先を歩いて、ふと振り返っては「名前、何しとんねん」と立ち止まってくれる、顔のよく似た二人の姿が。

「…名前?」

そう、こんな少し甘くて低い声で私の名前を呼ぶんだ。

「名前やんな?」

もう一度ハッキリと聞こえた声に、心臓が止まるかと思った。

「あ…侑…」

なんという偶然、神様の悪戯だろうか。

あの頃よりも短く、少し明るくなった髪の毛、伸びた背、がっしりとついた筋肉。

思わず目を逸らしてしまうくらいに格好よく成長した侑は、私の手を掴んで変わらない表情で笑った。

「ひっさびさやなぁ!いつ振りや?高校ン時の卒業式が最後か?いつこっち帰ってきたん?」

矢継ぎ早にされる質問は私にこたえる隙もあたえてくれず、ただ曖昧に相槌を打つことしかできない。

「この後予定ないならちょお付き合うてくれへん?」

「え、この後!?」

「おん、折角会えたんやし。それにサムの店名前はまだ行ってへんやろ?」

「う、それは確かにまだ行ってへんけど…」

「帰ってきたんなら顔くらい見せんとあいつも拗ねてまうで」

「でもなにも今日やなくてもええやん…」

「善は急げって言うやろ?」

逃げないようにとしっかり握られた手は少し気恥ずかしいが、同時にどこか懐かしくもあり、まるで幼い頃に戻ったかのように錯覚する。

ぶり返した気持ちに、もう蓋はできない。



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