カトレア

目が覚めると高校の保健室のベッドの上で、視線をあげると当時片想いをしていた名字さんが白衣を着て椅子に腰掛けていた。

状況から察するに彼女は保健室の先生で、俺は生徒。

本来の俺はMSBYの選手。

高校なんてとっくに卒業していて、名字さんとは卒業以来連絡をとっていない。

彼女が大人になった姿なんて俺の妄想でしかない筈だけれど、目の前にいる名字さんはあの時より少し大人びていて、着ている服も相まってか、俺の心臓はドキリと音を立てた。

「あれ、宮くん目が覚めたの?」

暫く観察していると、視線を感じたのか名字さんが俺の方を向き、ふわりと微笑んでこちらへと歩いてきた。

「具合はどう?」

「名字さん、俺なんでここにおるん?」

「名字さんて…名字先生やろ?宮くん、さっきの体育でボールが顔面にぶつかって倒れたのよ。覚えてへん?」

一体今の俺が何年生で、さっきの体育が何限目の体育を指すのかは全くわからなかったけれど、名字さんが俺のことを心配して顔を覗き込んだことに驚いて、些細なことは全部ぶっ飛んだ。

やって、名字さんの白衣めっちゃエロい。

しかもタイトスカートとか狙っとるん?

俺の目線からやと胸元ゆるゆるでブラ見えとるんやけどそれわざとなん?

「…宮くん?顔赤いけど平気?」

そう言いながら、名字さんはサイドの髪を耳にかけながら俺の額と彼女の額をコツンと合わせた。

目の前に見える名字さんの長い睫毛。

少し下に視線を向ければピンク色に潤った唇。

「なぁ、名字さん」

「名字先生って言うてるやろ?…宮、くん?」

頬に手を添え、その潤んだ唇に俺の唇を当てると、名字さんは驚きながらも目をそっと閉じて俺のキスに応えてくれた。

…はずなのに、触れた唇はやけに冷たく硬い。

しかも耳元で五月蝿いくらいに響く機械音。

機械音?

ハッとして目を開けるとそこは俺の部屋の天井で、名字さんの唇だと思っていたものは毎朝俺のことを起こしてくれる目覚まし時計。

いや、わかっていた。

わかってはいたけれど、何もここで目覚めなくてもよかったやないか。

もう少しで男の浪漫と言っても過言ではない保健室でのエロい展開になった筈なのに。

それを期待した俺の下半身は朝だというのに主張していて、悲しいかな先程の名字さんを思い出しながら欲を吐き出した。

それにしても、今更名字さんを夢で見るなんて思いもしなかった。

「…いつまで引きずっとんねん」

冷静になった頭で思い切りため息を吐く。

「思い立ったら即行動、やな」

スマホを手に取り、名字さんの名前を探す。

『名字さん、今度の同窓会行く?』

夢に出てくるまで気になったなら、本人に聞くのが一番や。

返事が来ますように。

神様なんて普段は信じてへんけど、今回ばかりは頼むで。

俺と名字さんの仲を取り持ってくれ。




花言葉:魅惑的



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