01
彼のことを知ったのは桜の蕾が咲き始め、私が稲荷崎高校で2年目の春を迎えた頃だった。
友人からバレー部にいるイケメンの双子の応援をしたいので試合を観に行かないかと誘われ、特に用事もないしとついて行ったのが始まりだ。
バレーは中学の授業でやったことがあっただけなのでルールもよく覚えておらず、観に行ったのはこれが初めてだった。
稲荷崎のバレー部は全国出場常連の強豪校らしく、練習試合とはいいながらも選手の名前の入った団扇をもった生徒も多くいて、一年もいたのにそれを知らなかったことを友人には驚かれた。
試合が始まるとこんなにも熱気があるスポーツだったのかと驚くほどの歓声や応援。
鳴り響く音たちに圧倒されぼんやりしていたらそれまで聞こえていた声が一瞬にして消え、会場は静まり返った。
不思議に思い友人に聞けば小声で「侑くんのサーブのときは静かにするんだよ」と教えてくれた。
一際目立つ金髪の彼は相手コートを見据え、ボールを高く上にあげると力強いサーブを放った。
「綺麗…」
思わず口から漏れた言葉を友人に聞かれてはいまいかと隣を見るが、綺麗に決まったサーブへの歓声にかき消されたようで、友人はコートへ向かって手に持っていた団扇を一生懸命に振っていた。
宮侑、友人が言っていたイケメンの双子の片割れでポジションはセッター。
彼がスパイカーに送るボールはまるで生きているかのように彼らの掌に吸い寄せられる。
あまりに綺麗な所作に試合中はずっと目で追ってしまい、試合終了後友人に「はまってくれたみたいでよかった」と少し笑われた。
それから観覧OKの試合があれば端の方でみるようになり、少しずつではあるがバレーのルールにも詳しくなった。
選手としてコートへ立ったときの大人びた雰囲気の彼が格好いいのは勿論だったが、試合開始前や終了後の友人たちと戯れるときの彼をみて、かわいいなあなんて思ったりもした。
決して自分を認識してもらおうなんて思いはなく、視界に宮くんが入ったら今日はラッキーだなくらいの気持ちだったのだ。
そして今日、放課後に委員会の集まりのために指定された教室のドアを開けば、開放音に驚いたのかこちらを見つめる宮くんがいた。
彼も同じ委員会なのだろうか。
運がいいなあと心の中で思いつつ、静かに空いてる席に座ろうとした私に彼は声をかけた。
「名字さんも体育祭の委員なん?」
私と彼はクラスも違うのでとくに接点もなかったし、共通の友人もいない。
まさか向こうが私を認識しているなんて思ってもみなかった。
ドキドキする心臓を必死に抑え、平静を保ちつつ問うた。
「名前…なんで知ってるん?」
いや、これでは冷たかったであろうかとか、聞いたところでどうするんだと反省するももう出てしまったことは仕方あるまい。
宮くんは何か言おうとしては口を閉じ、困った顔をしたかと思えばええいままよと意を決したような顔をし私に告げた。
「ずっと気になっててん。オトモダチからでええんで仲良くしてくれん?」
彼の言葉に頷き、どうして私なのか問おうとしたら、ガラッと音がし他の委員の人たちが入ってきてしまいそれは叶わなかった。
「あれ、侑やん〜!」
他のクラスの友人なのだろう、宮くんをみつけると嬉しそうに近づいてきて肩を組むとそのまま窓際の席へ向かい腰をおろした。
宮くんも楽しそうに笑い、気づかれないよう視線だけ私の方へ向けると声にはださず口パクでまたなと伝え、友人の方へ顔を戻した。
結局委員会が終わった後、彼はそのまま部活へと走っていってしまい話すことは出来ず、夢でもみたのだろうかと一人首をかしげた。
back