09
月曜日、閉店時間になっても治さんは買いに来てくれなかった。
お店ができてから毎週欠かさず買ってくれていたのに来ないのは、自分のせいではないかと胸がザワザワする。
仲良くなったと思ったのも、いい雰囲気だと思ったのも全部私の勘違いで、治さんはそんな気はひとつもなかったのだろうか。
もしかしたら買いに来るかもしれないと思ってケーキを取っておいたけれど、それも無駄に終わってしまったし、気分も下がる一方だから今日は早く家に帰って寝よう。
そう思って冷蔵庫からケーキを取り出し箱に詰めていた時だった。
カランカラン。
入口の扉が開く音がして目をやると、申し訳なさそうな顔した治さんがそこに立っていた。
CLOSEの札はかけてあったが、鍵をかけ忘れていたらしい。
「あ…治さん、今日はもう来ィひんのかと思ってました」
慌ててバックヤードから店内に出たところで、彼は被っていたおにぎり宮の帽子を脱ぎ、眩しいくらいの金色の髪を私に見せた。
「…侑、さん?」
今までどうして気づかなかったのだろう。
外されたサングラスから見える瞳の色も、落ち着いたグレーではなくキラリと光る黄金色。
今までのちょっとした違和感が、一つずつ紐で繋がっていった。
月曜日にくる治さんと、お店にいる治さんがどこか違う雰囲気に感じたのも、私が月曜日の治さんにだけドキドキしたのも、治さんが侑さんに会うよう勧めたのも、全部、全部。
「ずっと騙してたんですか…?」
私が、私が好きになったのは、侑さんだったというのだろうか。
「スマン…」
謝罪は、肯定でしかなかった。
「で、出てってください!閉店してるんで!」
そう大声で叫ぶと侑さんは一瞬悲しそうな顔をして、何も言わずに私に背を向けお店から出て行った。
追い出したのは私なのに、侑さんの辛そうな顔が頭から離れない。
今更追いかけるわけにもいかないし、私はこれからどうしたらいいんだろうか。
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