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名字さんに話しにいくと言って店を出たツムが暗い顔で帰ってきた時、どんな言葉をかけたらいいかわからなかった。

余りにも落ち込んだ様子のツムに後悔の念を抱いたけれど、俺が謝ったところで事態は何も変わらないし、何より自分の罪悪感を減らすだけでしかなく気が引けた。

泣くわけでもなく、ただ眉を下げて困ったように笑う片割れは今までに見たことがない。

「仕方ないのはわかってんのにな」

わかってはいるけれど、諦められないくらいに育った恋心。

言われなくても伝わるその気持ちに、勘違いの一因となった俺は何かできることはないかと一人思案した。

いつ気づくかなんて軽く思っていたけれど、少なくともツムが名字さんに恋心を抱いていた時点で早めに気づかせるべきだったと今更ながらに思う。

自分で言うのもなんだけれどそれなりにモテる自覚はある。

向こうも俺のことを知っていたと言うし、好意を抱かれる可能性は0ではなかったのだ。

自分の好いていた相手が実は違う人でした、なんて本人からしたら笑えないのは考えればわかるのに。

その証拠に、ツムが打ち明けてから彼女が俺の店に来ることはなくなった。

常連さんから聞いた話によると彼女のお店が地元の広報誌に載り、一人で切り盛りしてる名字さんは毎日忙しくてこちらに行く時間がないらしいが、それも半分は本当だろうけれど俺やツムに会うのを避けてるのもあるだろう。

とはいえ、彼女は『新作もあるから是非買いに来てください』とも言っていたという。

社交辞令かもしれないが、それでも、双子の片割れの初恋がどうにか実って欲しいと思うだから仕方がない。

「俺が一肌脱ぐってもんや」

バチンと少し強めの力で頬を両手で叩き、気合を入れる。

「上手くいってくれるとええんやけど」



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