13
「あー、名字さんとこのケーキが食いたい…」
口にしたケーキは美味しくて不満なんてある筈ないのに、求めるのは毎週月曜日に買っていたあのケーキ。
毎回違う種類を選ぶのに、どれもこれも作り手である名字さんを彷彿させるふんわりと優しい甘さだった。
早いとこ誤解をといておけば、いや、そもそも初対面の時に双子なのだと説明しておけばよかった。
悔やんだってもう遅いのに。
「他のお店に浮気ですか?」
ふと、耳に届いた小さな声に、持っていたケーキを落とすかと思った。
「え…あ…」
「もう買いに来てくれないんですか?…なんて、私が言っていい台詞と違いますね」
困ったような悲しんでいるような、なんとも言えない顔をした彼女は、そのまま俺の隣へと腰掛けた。
「まずは…侑さん、ごめんなさい。八つ当たりしました。ずっと治さんやと思ってた人が侑さんやって知って、自分の気持ちがどっちに向いてるのかごちゃごちゃしてしまって…」
「いや!でもあれは…」
「私、侑さんが好きです。こんなこと言っても信じてもらえないかも知れないんですけど、お店に来てくれる“治さん”と話す時はドキドキするのに、お店に行った時の“治さん”にはそういう感情がわかなくて…なんでやろって思ってたんです。そら別人なんやから当たり前やんなって、今思えばそうなんですけど」
「え、好き…?」
「はい。侑さんが好きです」
「サムやなくて?」
「治さんやないです。…もう今更好きって言ってもダメですか?」
名字さんの瞳は今にも溢れそうなほど潤んでいて、必死に紡いだ言葉は震えている。
「ダメと違うよ。俺も…俺も名字さんのこと好きやねん」
「侑さん…ごめ…ごめんなさい…」
「ええねん。俺が最初にサムやないって言えばよかったことやから…名字さんは悪くあらへんよ」
ギュッと抱きしめた名字さんの身体は小さくて、力を少しでも入れれば簡単に壊れてしまうのではないかとさえ思う。
「ちょっと遠回りしてしまったけど、両想いってことでええ?」
「はい、大丈夫です」
へにゃりと笑う彼女の顔を見てホッとする。
「またお店行くな」
「はい。私も試合観にいきますね」
「…連絡先聞いてもええ?」
「いいですよ」
「毎日連絡してもええ?」
「はい、私もしたいですから」
「電話とか…」
「…声聞きたいですからいいですよ」
「や、休みの日にデートとかは?」
「…」
「…アカン?」
「侑さんて可愛いですね!」
ふはっと笑い声が聞こえ、首に腕を回されたかと思えば頬にリップ音が響く。
「恋人なんですから、許可なんていらないんですよ」
「…ほんならお言葉に甘えて」
名字さんの、赤く色付いた唇へキスを落とす。
一瞬、驚いたように目を見開いた彼女だったけれど、瞼を閉じ受け入れてくれた。
甘いのは先程食べたケーキなのか、それとも彼女自身なのか。
このまま連れて帰るには部屋が汚かったかもしれないと思ったが、手に入れた可愛い可愛い彼女をすぐに離したくはなかった。
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