01
「名前のとこは付き合って何年?」
「高校からだからもう8年とかになるよ」
「え、じゃあそろそろ結婚とか考えてる感じ?」
友人とそんな会話をしたのがついこの間。
私と侑の間に結婚の話があがったことはあった。
でも私にはプロバレーボール選手になった華やかな侑の隣にいる勇気がなくて、その話を流してしまったのだ。
それがいけなかったのかと言われれば確かにそうなのだけど、だからといって結婚したくないわけではなかったのに。
どんなに長い時間築き上げたものでも壊れる時は一瞬であることなんてわかりたくなかった。
きっかけは仕事帰りにフラッと寄った繁華街。
なんとなく見たところに目立つ金髪の男とテレビで見たことのある綺麗な女性が腕を組んで歩いていた。
それだけだったらよかったのに、路上でキスをしてそのままホテル街の方へと歩いていったのだ。
まさか、と思った。
信じたくなかった。
でも、私が侑のことを見間違えるわけがない。
浮気?それとも向こうが本命?
必死にさっきみたものを自分の記憶からなくそうと頭を振るも消えてくれず、その場から逃げるように私は足を動かした。
家に帰って、これから私は他の女と過ごした侑を迎えなければならないのかと思うと気が狂いそうになった。
急いで荷物をまとめて、家を出る。
どこへ行く?スマホを取り出し連絡帳を片っ端からみる。
実家?いや、姉夫婦がいるのに戻れない。
友だちの家?ダメだ、ワンルームの彼女の家にいつまでかかるかわからないのに押しかけられない。
ひとり浮かんでは消え、またひとり浮かんでは消える。
とりあえず今日はビジネスホテルにでも泊まるかと足をすすめた時、懐かしい声が聞こえた。
「名前か?」
聞いただけで背筋の伸びる凛とした声。
振り向いて顔を見たら、かつてバレー部をまとめあげた彼で。
その変わらない姿に涙が止まらなくなった。
「なんや、急に泣いて」
「ご、ごめんなさい」
久しぶりに会ったのに見た瞬間号泣とか迷惑過ぎると慌てて涙を拭うがなかなか止まってくれない。
「そんな大きいキャリー引っ提げてどこ行くんや。長期間旅行なんて行かへんやろ」
ごもっともすぎる指摘にぐうの音もでないでいると「侑はどうしたんや」と今一番聞きたくない名前が挙げられた。
「あ、いや、その…喧嘩しまして…」
「喧嘩したくらいで家出か?早よ帰って仲直りせなあかんで」
北さんの正論パンチが私に思いっきり決まる。
喧嘩じゃないから帰れないんです、とは言えず唸っていたら「とはいえ、今は帰りたくないんやろ。泊まるとこないならうちに泊まってけばええ。ばあちゃんもおるし部屋数もあるから安心してくれてええよ」と提案をされた。
いくら土日が休みとはいえ月曜になったら仕事は行かなきゃいけなくて、ホテルに毎日泊まるお金もなかったので、ありがたいそのお言葉に甘えさせてもらうことにした。
「お世話になります」といえば「ちゃんと落ち着いたら侑と話せなあかんで」と念押しをされ「善処します」とこたえれば「返事ははい、や」と訂正された。
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