02

翌日、いつものように登校すると下駄箱のところで宮くんに会った。
おはようと声をかけると、彼はひどく驚いた顔で振り向いて口をぱくぱくさせた。
やはり友だちになったからと言って気軽に声をかけるべきではなかったのだろうか。

「ツム、はよせんと置いてくで…」

動かない片割れを不思議に思い声をかけた銀髪の彼、宮治くんは彼の前にいた私をみてああ、とどこか納得した声を出しそのまま教室の方へと行ってしまった。

私も靴を履き替え、留まる理由も特になかったのでその場を後にしようと足を踏み出したのだが、それは私の右腕を引っ張った彼の手によってとめられてしまった。
彼は何か言おうとしていたが時間をみればもうすぐ予鈴がなる時刻。
ゆっくりする時間もなかったので「行こう」と掴まれた腕ごと彼を引っ張った。
その途端予鈴がなり、私たちはあわてて教室へと駆けた。
教室へ駆け込む直前、宮くんは「昼休み、一緒飯食うから待っとって」と遠慮がちに、しかし断る隙を与えず告げてきた。
ちょっと待って、なんて言ったがクラスの違う彼の耳に果たして聞こえたかどうかもわからない。

授業を受けている間も本当に一緒に食べるのかとか、まさかクラスで食べるのかとか、色々考えたら授業の内容は全然頭に入らず、友人には今日のあんたぼーっとしてんなあと笑われてしまった。
そしてあっという間に午前の授業は終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。

「名前〜!ご飯食べよ!」

授業の片付けをしていると、友人たちが私の方へ向かってきた。
いつもならばこのままみんなと食べるのであるが、先程宮くんに誘われてしまったのでお断りしようとしたその時

「名字さん!!すまん、遅なった!!」

教室の扉を勢いよくあけ、息を切らした宮くんが私のことを大声で呼んだ。
友人たちには「え、名前いつから侑くんと知り合いになってん?」「は?宮侑やん。名前ちょお説明せんか」などと言われたが、そのままこちらに向かってきた彼が「今日は名字さんのこと借りるな!」と私の肩に手を回して引き寄せれば「どうぞどうぞ」とそのまま引き下がった。
肩に回された手を離されることなくそのまま教室の外へと連れ出されたため、言い訳をすることも叶わずこの後友人たちから聞かれるであろうことを想像して一人ため息をついた。

二人とも何を話すでもなくそのまま歩き、屋上へと向かう階段を前にしてやっと宮くんは口を開いた。

「すまん、あんま目立つのとか好きやないよな…?待たせたらアカンと思って急いだら忘れてしもて…。」

ああ、さっき私が吐いたため息のせいで彼に気を遣わせてしまったのかと思い「そんなことないよ、大丈夫。」と伝えればホッとした顔で「行こか」と屋上の扉を開いた。

屋上は普段は開放しておらず、鍵がかかっているはずなのにいとも簡単に扉を開けた彼にびっくりして問うと「鍵、壊れてるから簡単に開くんやで」と得意げな顔で教えてくれた。

「「いただきます」」

私はお弁当を、宮くんは購買で買ったであろうパンたちを広げ食べ始める。
お互い何かを話すでもなくもくもくと食べているのも気まずいので、なにを話そうかと考えるも共通の話題があるわけでもない。

「名字さんは、お弁当なんやな」

困った顔をしていたのだろう、宮くんが気を利かせて聞いてくれた。

「うん、購買も考えたんやけど競争率高くてなあ…。好きなパンを買おうと思っても大抵売り切れてしまって買えないんよ。」

「そうなん?なんか買いたいのあったら買うてきてやるで。」

「ほんなら今度頼もかなあ。運動部の人たちはやっぱ競争強いんやな!」

お弁当の話題を皮切りに、購買のあのパンが美味しいだのコンビニの新製品はあれが好きだの他愛のない話をした。
宮くん自体は新製品には興味がないけど、片割れの治くんが買ってくるらしく、それを内緒で食べてよく怒られるらしい。

バレーでの様子や、喧しブタなんて言ってるのを聞いたりしていたのでもっと話しにくい人かと思っていたが、そうでもなかったらしい。
よく笑うし、関西人の血なのか彼の友人のことも面白おかしく話してくれ、私のことも笑わせてくれた。

楽しかった時間はあっという間に過ぎ、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。
次はなんの時間だったかなあと考えながら屋上を後にし、宮くんともクラスの前で別れた。
宮くんは「次は購買で買うたの食べような」なんて声をかけてくれた。

教室へ戻ると友人たちから「放課後覚悟しいや!」などと揶揄われ、のらりくらりとかわしつつ午後の授業の準備をした。

宮くんと話すの楽しかったなあ、また話せるかな、次はいつご飯食べられるんだろう、そう考えながら受ける授業はいつもより少し楽しかった。
憧れの宮くんが、友だちの宮くんに変わった日だった。



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