03

北さんのおばあちゃんの言う通り、少し歩いたところに小さい神社があった。

石段を登り鳥居を潜ると木々が芽吹いていて、清らかな空気に昨日からの張り詰めていた糸が緩むのを感じる。

そういえば、こうやって自然の中にいるのはいつぶりだろう。
いつも侑に合わせてお家デートで、たまの旅行に行っても大都市とかの人に紛れられるところしか行かなかった気がする。

私にもう少し自信があればよかったのだろうか。
そうしたら侑は私だけをみていてくれたのだろうか。

違う、今日はゆっくりしにきたんだ。
侑のことは一旦忘れよう。

止めどなく溢れてくる思いに蓋をして、参道を進むと一対の狛狐が祀られていた。

『悩んでるならきっと導いてくれるはずや』

今朝北さんのおばあちゃんに言われた言葉が思い出された。

鈴を鳴らし、お賽銭箱にそっと小銭をいれて二拝二拍手。

『侑との関係をやり直したいです』

そう願い、最後にもう一拝。

付き合わなければこの苦しさもなかったのかもしれない。
楽しかった思い出もたくさんあったけれど、今はそれすらもなかったことにしたい。

目を開けようとした途端生暖かい風が吹いた。
思わず目を閉じると、急に目の前が真っ暗になり体が傾くのがわかる。

あ、倒れる…。

そう思ったところで意識が飛ぶのを感じ、瞼の裏で狛狐がニヤリと笑うのを見た気がした。



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