07

目が覚めるとベッドに横たわってて、横から「今日は早いんやな」とサムの声がした。

さっきまでお稲荷さんにおったのになんでサム?と声のするほうをみたらギョッとした。

そこにおったのは髪の毛がアッシュグレーで、まだどこか幼さを残す顔立ちのサムやった。
どうなってんねんとスマホを見れば日付は2012年の4月。

とりあえず今日は始業式みたいなので急いで支度をし、バスへと飛び乗った。
サムが「今年は何組やろな〜」と言っとるけど、俺は知っとる。
忘れもしない2年2組、名前と出会ったクラスや。

玄関へ着けばクラス替えの紙が貼られていて、人混みの後方に名前の姿が見える。
あの名前は俺の知ってる名前なんやろか。

一か八かで話しかけてみれば、キョトンとした顔で見られる。
ああ、これは“名字さん”や。

懐かしい顔の名前をみて泣きそうになるのを必死に堪えて話す。
なんでこんなかわええ子を裏切るようなことをしたんやろか。
結婚なんかせんでも隣に居ってくれるだけでよかったやんか。

神さんは俺にやり直させてくれているんやろうか。
それとも、名前が俺のことをなかったことにしたいんやろうか。

どうしても悪い方へと考えてしまい、慌てて頭を振る。
何度嫌われても、何度だって振り向かせればええ話や。
そうかたく誓って、クラスへと向かった。


始業式が終われば部活で、久々の稲荷崎の体育館に嬉しくなる。

かつてチームメイトだった北さんたちともう一回試合ができるなんて、なんて幸せなんだろうか。
今はバレーを辞めてしまったサムも、違うチームに入った角名も、みんな居る。

この不思議な時間がいつまで続くかわからへんけど、続く間は彼らにトスをあげられるんや。
そう思うと自然と顔が緩む。

いざ練習が始まると結構ハードで大変やったけど、試合形式の練習は最高やった。
いつもの化け物たちを操る感覚も高揚を覚えるがこれはまた違った意味で胸が高鳴る。

サーブもバンバン決まるし、コートの中もよく見える。
「今日は侑調子ええなあ」と監督にも褒められた。


部活が終わると、観覧席に居ったヤツらも荷物をまとめて帰ろうとする。
当初の目的を忘れていたことを思い出し、慌てて名前のところへ走る。

「名字さん、ちょっとええ?」と声をかけ、無理矢理一緒に帰る約束をとりつける。

名前は俺と帰るのが心底不思議みたいで、「あの、なんで私と帰るん…?私なんかしてもうた?」と困った顔をして聞いてきた。

その態度に「やっぱ覚えてないんやな」と悲しくなり呟く。
自分で撒いた種やけど、好きな子に覚えられていないのは辛い。
あんなに近くにおったのに、今は触ることすら許されないなんて。

名前からしたら何のことかわからへんのに、困りながらも謝ってくれた。
そういう優しいところも好きやったなと思う。

でも、その名前の何も覚えていない態度で確信する。
これは俺のためやない、名前が望んだからやり直されとる。
真意はわからへんけど。

思わず「全部なかったことにするつもりなん?」と口にしてもうて、この期に及んで八つ当たりなんて男らしくないと自分を殴りたくなる。
「すまん、なんでもあらへん。…また明日な」そう口にして、手を振った。

また明日なんて、くるんやろか。
これはいつどうやったら終わって現実へと帰れるんやろか。
自分の本来いるべき場所へ思いを馳せて、夕暮れの道を一人歩いた。



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