07

リレーが終わって花巻くんが手を振りこちらへ向かってきた。
走った後だからか汗が滴っていて高い身長も相まって様になっている。

「花巻くん、逆転一位おめでとう」

「名字さんさっき応援してくれたろ?声聞こえた」

「や、そんな…。大した声援じゃないけど…」

「いや、嬉しかった」

ニカッと笑う花巻くんがキラキラ輝いてみえる。

「花巻くん次何出るの?」

「借り物競争。及川もでるらしいぜ」

「及川くんも?」

「『マッキーには負けないからねっ!』って言われた…。めんどくせぇ…」

心底嫌そうな顔の花巻くんに思わず笑うと「笑い事じゃねーよ」と苦笑いされた。

「マッキー!そろそろ招集かかるよ!」

噂をすればなんとやらで、向こうから及川くんが走ってくる。

「あ!名前ちゃんだ!今日お化粧してるんだね!すごくかわいいね!」

私に気づいた及川くんが褒めてくれる。

「応援団の子にやってもらったんだ」そう言えば「いい友だちだね!」と笑ってくれた。

「及川、そろそろ行くんだろ」

花巻くんが声をかけ、忘れてた!という顔をした及川くんが面白くて思わず笑みが溢れる。

「名前ちゃん、マッキーだけじゃなくて俺の応援もよろしくね!!」

「うん、二人とも頑張って」

二人に手を振り、応援団の子たちのところへ向かう。
花巻くんが来るのが見えて気を遣って少し離れてくれたのだ。

「名字さん及川とも知り合いなの?」

「花巻くん経由で絡まれたの」

「及川いいやつだけど絡みうざいよね!」

「わかる〜、黙ってればイケメンなのにね!」

及川くんはイケメンだから人気なのかと思えばどうやら残念なイケメン枠らしい。
みんなから「あれは観賞用」と厳しい一言をいただいた。

そしてよーいドンの掛け声と共に借り物競争が始まる。

借り物とあるが、借りてくるのは物だけでなく人も含むらしい。
去年のハズレのお題は『校長のカツラ』だったらしいのでそれ以上やばいのはないだろう。

借り物競争の列が進んで、花巻くんと及川くんの番になる。
二人はどんなお題を引くんだろうとぼんやりしていると、横から「ねえ、名字さん。及川くんと花巻こっち向かってきてるけど?」と言われ、目線をあげれば迫りくる二人。

「名前ちゃんは!俺と行くの!!」

「いやいや、俺のが先に知り合ってんだから俺に譲れよ」

頭が痛くなるような会話に思わず死んだ目になれば「顔!顔!」とツっこまれる。

ただでさえバレー部は目立つのに二人に連れて行かれたら最悪だ。
そう思って逃げようとすれば、両腕を応援団の子たちに捕まれて「お二人ともどうぞ」と差し出された。

敵は味方だと思っていた人たちだったらしい。つらい。

及川くんと花巻くんの二人に引きずられるようにゴールへと連れて行かれる。
運動部の足に追いつくわけないんだからもう少し優しく走ってほしい。

『同着ゴールです!6組及川くん、3組花巻くん!連れてきたのは…名字さんです!お二人のお題は一体なんなのでしょうか!!』

「異性の友だち!」

「今日一番可愛いと思うコ」

『はい、お二人ともゴールです!ありがとうございました!』

サラッと退場を促されたが花巻くんは今なんて言った?
“今日一番可愛いと思うコ”?

「名字さんよかったじゃん〜!」

「かわいいってよ!」

「しかも今日一番!!」

「これは応援がんばないとだね!」

顔の熱が引かなくて応援団の子たちに「ちょっとトイレ行ってくるね」と伝え、グラウンドから離れる。

「ねえ、ちょっと顔貸してくんない」

急に声をかけられ振り向くと、そこにはよく花巻くんの席に遊びに来ていた派手な女の子たちがたっていた。

あ、まずい。
そう思ったけれどここは人通りの少ない体育館裏、場所が悪すぎる。

「さっきの見てたんだけど」

「さっきのといいますと…」

「花巻に一番可愛いと思うコって言われてたでしょ」

ものすごく怖い、どうしよう、そう思ってたら女の子たちが「折角可愛いって褒められてるのになにその眼鏡!コンタクトないの!?」と続けた。

「え、眼鏡…ですか?」

「そうよ!化粧とかもしてるのにその眼鏡!もったいないでしょ!?」

呼び出しかと思ったらどうやらそうではないらしい。

「名字さん、応援やるんでしょ?コンタクトないの?って聞いてるんだけど?」

「教室にあります…」

「じゃあ早くかえてきなよ!」

「応援団の子たちから聞いてるよ!花巻のこと好きなんでしょ!?」

さっきと違う意味でまずいと思った。
私が思っていたより広くひろまっている噂に顔が青くなる。

「好き!?」

「え?違うの?」

「好きだなんて…」

否定しようとしたが、格好よくて、私のことを今日一番可愛いと褒めてくれて、甘いものを食べるときに嬉しそうな顔をする彼を思い出す。

胸がドキドキして、ギュッと締め付けられるようなこの気持ちは、多分…。

「好きじゃないの?」

もう一度聞かれた質問に「いや、好きだと思います…」とこたえる。

それを聞いた彼女はニコッと笑って「ならやっぱりコンタクトにしなよ。うちらめっちゃ応援してるからさ!」と言ってくれた。

その言葉に頷いて、私はコンタクトに変えるべく教室へと戻った。



back